広報誌「かけはし」
 
■2008年12月 No.447
時評

社会保障の「給付と負担」ゆくえは

− 税・財政改革での国民的合意がカギ −


 先ごろ、経済財政諮問会議(議長・麻生首相)での議論のなかで、日本の社会保障のあるべき姿は「中福祉・中負担」であるが現実問題として負担が足りない、との認識に異論はなかったという。
 医療・年金・介護など社会保障の給付と負担をはかる指標として「国民負担率」がある。国民所得に対する社会保障給付費と租税の負担割合を示したものだ。財務省の2008年度見通しによると日本は40・1%である。国際比較(2005年実績)をみると、大きい順にスウェーデン70・7%、フランス62・2%、ドイツ51・7%、イギリス48・3%、日本38・3%、アメリカ34・5%。これにはスウェーデンを除き各国とも3〜5%の財政赤字分が含まれず、実際の負担割合はもっと大きくなる。「中福祉・中負担」の線引きはむずかしいが、社会政策が整ったスウェーデンは「高福祉・高負担」、民間保険主体のアメリカは「低福祉・低負担」といえる。
 日本では、高齢化のピーク時でも50%を超えない「中福祉・中負担」が政策目標として考えられてきた。それを念頭に、たびたび給付と負担のバランスをとるための制度改革が図られた。健保法改正による被保険者本人の療養の給付率改定だけに着目しても、1984年(昭和59年)9割、1997年(平成9年)8割、2003年(平成15年)7割と改められた。これは本人の一部負担割合が1割から3割に引き上げられたことになる。現在、健保組合、国保など医療保険各制度の給付率は高齢者医療制度の一部を除き、ほぼ7割で統一されている。同時に、これ以上、給付率と一部負担割合に手を入れては保険の姿としてよいのか、保険料を負担している現役世代から合意が得られるか、との指摘が多い。
 給付率が低下して保険者の財政状況が好転したかというと、まったくの一時しのぎにすぎない。
 全国の健保組合の決算状況をみると、2006年度に2、372億円だった経常収支差引額が、2007年度(見込み)には599億円まで一気に減少した。今年度は、全医療保険者に負担を求めながらまったく公費導入がない前期高齢者医療制度への納付金、同後期制度への支援金、特定健診・特定保健指導に対する費用捻出などが重なり、大幅な赤字を出すことが確実である。
 2025年がピークといわれる人口高齢化へ向けて、増加が避けられない国民医療費を、今後だれ(どこ)がどう負担するのか。
 健保連は、先月開いた健保組合全国大会で「税・財政改革による安定した社会保障財源の確保」を打ち出し決議した。このたびの超高齢化社会は、日本がこれまで経験したことのない出来事である。日本ではずっと増税アレルギーが根強いというがこうした状況下、避けて通れず国民的コンセンサスを得る時期にきている。加えて、国民の財産であり世界に誇る国民皆保険制度を危機にさらすことなく、国は一定の財政責任を果たすべきである。
  (T・M)