広報誌「かけはし」

■2008年9月 No.444
 
 
女性を悩ませる子宮内膜症とは一体何もの?

− 腹腔鏡下手術で探ろう その実態を −

 8月21日、薬業年金会館で健康教室を開催。健保連大阪中央病院 副院長 伊熊健一郎氏が「女性を悩ませる子宮内膜症とは一体何もの?─腹腔鏡下手術で探ろう その実態を─」をテーマに、DVDによる内視鏡手術例の実際と、その解説を交えながら講演されました。(以下に講演要旨)

   内視鏡手術(腹腔鏡下手術)とは
 

 

伊熊健一郎氏

 腹腔鏡下手術では、お腹の中(腹腔内)に炭酸ガスを注入して膨らませ、お臍(へそ)のところから内視鏡カメラを入れて、お腹の中の様子を数台のモニターに映し出します。その映像を見ながら手術操作をするため、下腹部の2、3カ所に5oぐらい切開した場所に筒(トロカー)を入れ、そのトロカーに通した菜(さい)ばしのような鉗子(かんし)で手術の操作を行います。ただし、大きすぎる腫瘍や進行した悪性のものに対しては、開腹手術が適しています。しかし、そのようなもの以外では、ほとんどの内容の手術が腹腔鏡下手術でできるようになっています。
 このような内視鏡手術は、手直接でなく道具を介するため、手術に対して「具術」とも呼ばれています。

   内視鏡手術(腹腔鏡下手術)の特性
 これまでは、子宮筋腫などの腫瘍は開腹して切除していました。しかし最近では、内視鏡手術が普及するにつれ、必要最低限の切開創で手術がされるようになってきました。この手術は、術後の痛みは少なく、手術前と変わりない生活をより早く送ってもらうことができます。ただ、内視鏡手術は、小さな創から特殊な器具を使って開腹手術と同じ内容の手術を行うため、特殊な技能と高い技術を必要とする極めて難しい手術ではあります。

   子宮内膜症への対応から
 子宮内膜症は、月経痛や慢性骨盤痛、さらには不妊症の原因にもなり、その病態は多種多様を呈します。腹腔鏡下手術では、骨盤内の癒着に対しては、可能な限り周辺臓器との癒着を解除(剥離)します。チョコレート嚢腫に対しては、嚢腫壁を摘出して卵巣を修復して、卵巣を温存(残す)します。

   摘出した組織の回収から
 手術で摘出したチョコレート嚢腫壁は、回収袋に入れてお臍の創から取り出します。しかし、他の種類の腫瘍で大きなものは、トロカーの創からは出せないことがあります。そのような場合は、袋に入れて膣から回収することもあります。また、子宮筋腫ではリンゴの芯抜きのような器械で筋腫を細かくして体外に取り出します。

   腹腔鏡下手術の仕上げから
 ところで、単に切除や摘出したから手術が終了、というわけではありません。その部分がきちんと縫合できているか、機能が果たせるかどうかのチェック、出血がないか、他のところも大丈夫かなどの確認もおろそかにはできません。最後に、よく洗浄(お腹の中を生理食塩水で洗います)して手術が完了するのです。

   まとめ
 私たち婦人科医師は、診察をするに当たり、女性を悩ませている原因は一体何なのかをきちんと把握し、必要とする場合には手術も積極的に行います。でもするのなら、できる限り小さな創で、体に優しい腹腔鏡下手術を提供することで、常に女性の味方でありたいと考えております。
 1日に数件の手術を行いますが、ただ早く済ませればよいわけではありません。しかし、早く済ませることができるということは、それだけよい手術を行うことができるようになっている証拠だと思います。
 今では、内視鏡手術は遠隔操作ででも行われる時代になりました。近い将来、宇宙ステーションでの手術(コスモ・サージャリー)も必ずや行われるようになると思います。ぜひ注目しておきたいところです。
 今回の講演を通して、内視鏡手術である腹腔鏡下手術が、女性の味方である治療法であることを認識いただければ幸いです。



※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。