■2008年8月 No.443
「高齢化と負担」に論議を尽くせ
−自然増という名の当然増に抜本対策を−
国民医療費には、避けることのできない“自然増”がある。
自然増の要因の1つ目は、人口の増加と高齢化である。わが国の場合、総人口は頭打ちの状態にあり、課題は高齢化。高齢者ほど病気になるリスクが高く医療を受ける頻度が多くなる。2つ目は、疾病構造の変化である。高齢者が増えれば比例して、生活習慣病など慢性的な病気による長期の受診が多くなる。3つ目は、医学・医療の進歩である。新しい医療技術、新薬、新鋭検査機器の導入にともなう診療報酬点数算入の作用である。インフルエンザの流行なども、自然増に含まれる。
厚生労働省のまとめによると、平成19年度の概算医療費は、前年度より3・1%、約1兆円増え、33兆4、000億円に達した。両年度間に診療報酬改定や大きな制度改正がなかったので、医療費の伸びは自然増分といえる。また、医療費を年齢階級別にみると、70歳以上の医療費の伸びが5・4%増と高く、自然増の構成要因が作用していることを裏付けている。
ところで、毎年8月末に各省からの来年度予算概算要求が出そろうが、今年もその時期にさしかかった。平成21年度概算要求のうち、社会保障関係予算に関するシーリングは、平成18年に決定した「歳出・歳入一体改革に沿い、平成19年度以降5年間に1・1兆円削減する」ことである。昨年同様、1年間で2、200億円の自然増分カットとなる。
昨年、政府は窮したあげく、国庫(予算)負担の削減が主目的にもかかわらず、名目「政管健保への支援策」と称して、健保組合に肩代わりさせる理不尽な案を出してきた。この案は、「政管健保支援特例措置法案」となり、先の国会で継続審議とされ、まだ決着していない。このような小細工は論外であり、今後いっさいごめんこうむりたい。
国家財政の窮状を考えると、社会保障関係予算に関して歳出削減の努力を継続して行う必要はあるだろう。しかし、これまで数次の制度改革により削減策が実施されており「もう策は出尽くした」との見方が強い。改革の最後が、平成18年度から順次、施行されてきた医療制度改革である。一連のこの改革は、高齢者医療制度の再編成にとどまらず、診療報酬体系の改革、医療サービス体制の整備、健康づくり対策と多岐に及んだ。
これらは、どれも密接に関連しており、健保連としても「前期高齢者医療制度に難あり」としながら、大局的見地から一連の改革を後押ししている。
少子高齢社会は、かつての推計をはるかに超えるスピードで進んだ。理由は、平均寿命の伸びと予測以上の出生率の低下による。その結果、社会保障の財源に暗い影を落としている。社会保障における負担のあり方に対して、これほど国民の関心が高まったことはかつてない。この機に、国民あげて国の将来を見据え、目先の手直しだけで済ませず、しっかりとした論議を尽くすべきである。
(T・M)