広報誌「かけはし」

■2008年7月 No.442
 
 
膝痛の最新治療

〜 半月板損傷と変形性関節症を中心に 〜

 6月16日、薬業年金会館で健康教室を開催。健保連大阪中央病院 副院長 整形外科部長・井上雅裕氏が「膝痛の最新治療─半月板損傷と変形性関節症を中心に─」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

 整形外科は、脊柱変形の矯正からはじまり、18世紀のフランス人医師Nicolas Andry(ニコラ・アンドリ)によって確立されたといわれています。
 代表的な整形外科疾患には、腰痛、肩関節周囲炎(五十肩)、変形性膝・股関節症、骨粗しょう症、大腿骨頚部骨折、肩関節脱臼などがあります。

   変形性膝関節症 
 

 

井上雅裕氏


 変形性膝関節症は、年齢を重ねると自然に起こります。これは、膝関節の軟骨がすり減るからです。軟骨の耐久年数は50年といわれ、決して短いわけではないのですが、近年の長寿社会の進展により患者さんが増加しています。症状としては、歩くだけで痛みがある、正座ができないなどがあり、これは関節の可動域が減ってくることによります。関節の異常は、レントゲンですぐに発見できます。
 治療としては、安静にすること、あるいは減量することや、脚の筋力増強などのリハビリ、装具(足底板など)、薬物療法として消炎鎮痛薬やヒアルロン酸の関節内注射などがあります。手術では、関節鏡手術、骨切り術、人工関節置換術が有効です。

   人工関節置換術
 この人工関節置換術という手術の利点としては、除痛効果が高い、術後すぐに荷重できる、比較的短期間の入院(3週間ほど)ですむ、などがあり、日常生活へ早く復帰でき、活動性が回復します。また、ひどいO脚が改善されることも特徴です。
 人工関節の寿命については、85〜90%の患者さんには、15年経っても問題がなかったという結果がでています。

   半月板損傷
 半月板があることで、軟骨の減り具合いがゆるやかになります。したがって、なるべく半月板は切除しない、「保存・温存」することが重要になっています。
 研究が進むにつれ、半月板の根本に血管が発見され、縫合すればくっついて治癒することがわかりました。さらに、縫合せずに断裂した半月板を元の位置に戻して固定するだけで治癒することもわかり、縫合すること自体も少なくなってきましたが、本来の強度に戻すことは難しい状況です。
 その反面、半月板を取り除くしかない例もあります。そのときは、半月板移植も考えられます。しかし、移植によるウイルス感染症が危惧されることや、拒否反応などの問題点もあります。
 そういった問題点を解決するために、人工素材や生物由来の素材を使っての人工的な半月板の開発も進められていますが、耐久性や関節軟骨の保護などの観点から、いまのところ実際に使用できるまでには至っていません。

   検査・術式が進歩
 現在では、MRI検査や関節鏡手術のおかげで、靭帯などの損傷に対しても、ごく小さな手術痕が残るだけになりました。術後は、痛みだけをとり、体は動かすことができる麻酔など、なるべく手術に関しては痛くないようにする工夫もされるようになっています。
 膝の痛みで困るときは、専門医に診てもらうことで原因を探り、効率的な検査を受け、的確に治療することで、痛みを和らげましょう。


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