■2008年7月 No.442
10年間の論議を反故にしてはならない
−新高齢者医療制度に明確な主張を−
後期高齢者医療制度(長寿医療制度)への逆風が吹き荒れている。実際の負担増や診療報酬の問題以前に、75歳で制度を区切ることに対する感情的な抵抗感がお年寄りたちには強く、「うば捨て山」といった疎外感を感じられるためらしい。
また「弱いものいじめ」といったキャッチフレーズのもと、格好の政争の具とされていることも混乱に一層の拍車をかけていると見てよい。
野党からは廃止法案も出され、とりあえず元の老人保健制度に戻すよう要求されている。しかし果たして本当にそれでよいのだろうか?
「運営主体が不透明」「若年者、高齢者の負担割合が不明確」「際限ない現役世代への負荷」等々の問題点が指摘され、これ以上の存続はムリとみられたのが老人保健制度である。これを踏まえ、将来にわたり合理的でかつ持続可能な制度が模索され、10年来の論議を経てやっと決められたのが平成18年の医療制度改革関連法だ。そして「新たな高齢者医療制度」の創設は、「特定健診・特定保健指導」と並んで制度改革の目玉の一つである。
健保連としてはこの件に関し、当初「突き抜け方式」を主張していたが、国から若年者、高齢者を二分した「医療制度改革の基本方針」が出されるに至り、実現可能性等を考慮し、これに沿う形で「従来の若年者制度と、65歳以上の高齢者を対象とした別建ての地域保険方式」を独自提案した。しかし最終的には政府案の「前期・後期高齢者医療制度」で決定。75歳以上が別建てとされた点や、前期に公費が投入されていない点等に不満が残ったものの、老健制度の拠出金「青天井」の不安感が払拭されたことを考えれば、一定の評価を下せると判断している。
このようにして、侃々諤々長年の論議と検討の末に産み落とされた制度改革の帰結の意味を、私たちはもう一度冷静に再確認してみる必要があるのではないか。
今回のように、制度が施行されてまだ4カ月と経たないにもかかわらず、このような抵抗を受けるということは、法制化に携わっていた政治家たちも、その当時は真剣かつ正確に制度の中身を理解していなかった、あるいはしようとしていなかったのではないかと疑われても仕方がない。
繰り返し言いたいことだが、現在ある制度改革は不完全とはいえ、一朝一夕にできたものではない。さまざまな論議と見直しを繰り返し、その蓄積のうえに誕生した結晶のようなものである。
世論はもちろん大事だが、ものごとにはすべて経緯と因果がある。いたずらにまどわされることなく、健保連として主張をわかりやすく発信していくべきである。
(H・T)