広報誌「かけはし」
 
2007年10月 No.433

 
糖尿病とメタボリックシンドローム
 8月30日、健保連大阪連合会大会議室で健康セミナーを開催し、健保連大阪中央病院 内科部長 中川智左氏が講演されました。

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中川智左氏

 世間ではいま「メタボリックシンドローム」が話題です。昨年度の「流行語大賞」トップテンに選出され「脱メタボ」のコマーシャルが流れるなど、社会的にも認知されてきた感があります。実はメタボリックシンドロームは動脈硬化性疾患のハイリスク群を抽出するための概念であって、疾患名ではありません。糖尿病・高脂血症・高血圧・肥満症は単独でも動脈硬化を招く危険因子ですが、内臓脂肪肥満に加え糖尿病・高血圧・高脂血症を複数併せ持つ人は、より高率に狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患を起こしやすく問題となっているのです。
 肥満度はBMI( Body Mass Index=体重(s)/(身長(m)) )から算出されますが、内臓脂肪肥満は皮下脂肪肥満に比べ動脈硬化の危険度が高く、内臓脂肪の多い人はたとえ標準体重内であっても安心はできません。
 内臓脂肪細胞はアディポサイトカインと呼ばれるさまざまな生理活性物質を分泌しますが、内臓脂肪肥満では悪玉のアディポサイトカインが増加し、動脈硬化を抑える善玉のアディポネクチンが減少しています。悪玉のひとつTNF─αが増加するとインスリン抵抗性が増大して糖尿病を発症するだけでなく、インスリン抵抗性による高インスリン血症が高血圧・高脂血症を引き起こします。メタボリックシンドロームの根源にある病態はインスリン抵抗性なのです。
 一方、糖尿病はインスリンの作用不足により高血糖状態が続き、全身の代謝症候群を来す疾患です。複数の遺伝因子に過食・運動不足・肥満・ストレスなどの環境因子が加わり発症します。急激で高度のインスリン不足は血糖値の著しい上昇や激しい脱水を引き起こし、昏睡状態に陥ることもあります。また慢性的な高血糖の持続は、網膜症(眼底出血)・腎不全・神経障害・壊疽や心筋梗塞・脳梗塞などの動脈硬化症・感染症をはじめ全身の合併症を引き起こし、失明や人工透析、足切断を余儀なくされることもあります。きちんとコントロールしておかなければQOLばかりでなく生命をも脅かされかねません。
 糖尿病の二大成因はインスリン分泌不全とインスリン抵抗性です。日本人は元来農耕民族で粗食傾向であったため、遺伝的にインスリン分泌量が少なく糖尿病になりやすいとされています。それが過食・高脂肪食・運動不足というライフスタイルの変化で肥満、ことに内臓脂肪肥満が増え、インスリン抵抗性が増大し糖尿病の増加を招いているのです。
 糖尿病はメタボリックシンドローム状態になくてもそれだけで十分動脈硬化が促進され、冠動脈疾患発症の危険度は非常に高くなります。さらに内臓脂肪が蓄積し、高血圧や高脂血症が重なれば、糖尿病初期段階の境界型でもメタボリックシンドローム状態であり、動脈硬化に注意が必要です。現在「糖尿病患者740万人・予備群880万人」といわれていますが、予備群のなかにはメタボリックシンドローム該当者が少なくありません。メタボリックシンドロームの治療はまず食事療法・運動療法ですが、これは糖尿病治療の基本でもあります。冠動脈疾患予防のためだけでなく本格的な糖尿病発症予防のためにも、メタボリックシンドロームの管理・治療は重要なのです。