広報誌「かけはし」

■2007年9月 No.432
時評

「特定健診・特定保健指導における運動支援について」

メタボリックシンドローム改善のための効果的な運動

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宮地元彦氏


 7月26日、大阪商工会議所で保健師連絡協議会研修会を開催し、独立行政法人 国立健康・栄養研究所 運動ガイドラインプロジェクトリーダー 宮地元彦氏が講演されました。


  はじめに

 平成18年に、「健康づくりのための運動基準2006」と「健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド2006)」の策定が行われた。エクササイズガイド2006では、昨今話題となっているメタボリックシンドロームを解消するための手だてが提案されている。
 

  メタボリックシンドローム改善のための
    運動量・身体活動量

 メタボリックシンドロームの根本的な要因は内臓脂肪の蓄積である。したがって、メタボリックシンドロームを改善するためには内臓脂肪を減少させなければならない。内臓脂肪の減少にはウォーキングや水泳などの有酸素運動が有効な手段の一つである。そこで、減量手段として用いられた有酸素運動と内臓脂肪の減少との間に量反応関係があるか否かについて、世界中の論文をもれなく調べることにより検討を行った。その結果、内臓脂肪を有意に減少させるには少なくともおよそ10エクササイズ(メッツ・時)/週の有酸素運動が必要であることが示唆された。
  この10エクササイズ(メッツ・時)の値を簡易な言葉で言い換えると次のとおりとなる。
1.週に5日以上、30分の軽く息が弾む程度の運動(速歩など)を、普段の生活のなかに加える。
2.1日あたりの歩数を、それまでよりも毎日3,000歩増加させる。
 

  運動・身体活動習慣のステージ

 メタボリックシンドローム解消のために運動・身体活動を行う際には、みずからの実践ならびに心理的準備段階(ステージ)がどこにあるのかについて把握しておくことが必要である。個々人の運動・身体活動ステージは、おおむね5つに分類することができる。
1.維持期、2.実行期、3.準備期、4.熟考期、5.前熟考期。個々人の運動習慣は常に同じステージにあるわけではなく、ステージの間を上下するものである。運動習慣を確立し逆戻りを防ぐためには、そのときどきのステージに応じた取り組みが必要となる。
 維持・実行期のステージにある人は、みずからのがんばりを「称賛」し、自分自身に「自信」を持つことが運動習慣の維持に重要である。準備期のステージにある者には、みずからを「激励」し、家族などの身近な人からの「支援」と、運動を行う環境を整えることが有効である。熟考期のステージにある者には、糖尿病が治った自分やお腹がへっこんでかっこよくなった自分を「イメージ」し、運動を阻害する要因を探って取り除くことが有効である。前熟考期のステージにある者には、現状が続くことによる将来の問題から目をそらさないようにする一方、運動ができない自分を否定しないでゆっくり見つめ直す猶予期間を持つべきである。
 

  運動と食事の組み合わせの重要性

 メタボリックシンドローム改善のためには、運動・身体活動支援だけでなく食事・栄養支援が不可欠である。当然、食事のみの減量は必要な栄養素を取り損ね、筋量の減少が懸念され、リバウンドの可能性が高い。私は、指導の際に「食事だけではダメ、運動だけではムリ」と言うことにしている。
 もう一つ理解しておいてほしいことは、30分のウォーキングを週に5回実施する(120kcal)よりも、缶コーヒーを1日1本もしくはハンバーガーなら1日半分(120kcal)我慢する方が、実践しやすいという事実に注目しなければならない。運動は減量効果以外に、体力向上や気分の改善などのさまざまな好ましい効果を有するが、こと運動の減量に関する効果と限界の両方を、エネルギー代謝の観点から十分に把握しておく必要がある。
 

  運動・身体活動を支援する際のリスクマネージメント

 メタボリックシンドロームあるいはその予備軍の者は、少なくとも健康な人と比較して、運動実施時に傷害や内科的イベントに遭遇するリスクが高い。したがって、メタボリックシンドローム該当者が運動を行う際には、十分なリスク管理を行う必要がある。6METs強度未満の運動・身体活動を選択して、実施することで、脳卒中や心筋梗塞だけでなく傷害のリスクを下げることができる。
 メタボリックシンドロームやその予備軍の者は体重が重いので、歩行程度の弱い運動・身体活動とはいえ、実施の方法を誤ると膝や腰などに痛みがでる可能性が高い。そのためには、さまざまな傷害予防のための配慮が必要となる。
 

  まとめ

 メタボリックシンドロームを改善するためには30分間の速歩であれば週あたり5回以上、歩数であれば1日あたり3,000歩増やすことが必要である。このような運動・身体活動目標を達成するためには、自分の現在の身体活動状況や運動への取り組みの気持ちを知ることが重要である。また、メタボ退治に取り組む際には、運動に伴うけがや事故を未然に防ぐための準備も忘れないようにしたい。