広報誌「かけはし」
  
■2007年6月 No.429

健康診断結果から読みとる
〜どういった目的で何がわかるのか〜
   
 5月22日、薬業年金会館で健康教室を開催し、武庫川女子大学生活環境学部 教授 内藤義彦 氏が「健康診断結果から読みとる〜どういった目的で何がわかるのか〜」をテーマに講演されました。
 
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内藤義彦氏

 健康診断は、病院や診療所の診療とは異なり、軽症または無症状の多数の人を対象に病気の可能性のある人を篩(ふる)い分けすることが第一の目的ですから、比較的ポピュラーな病気が対象であり、治療や生活指導などの対処法が備わっていることが重要な条件です。
 ということで、どのような病気が社会的に大きな問題となっているのかが重要になります。本日は、今現在、注目されるべき病気の成り立ち・対処方法・指導の効果などの話題を採り上げ、特定健診・保健指導に積極的に取り組む必要性について触れたいと思います。
 現在、肥満・糖尿病は、今や全世界的規模で蔓延し、先進諸国だけではなく、発展途上国でも大きな問題となっています。わが国も、現在そして近未来的には、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症が増え、そしてそれらが原因となって虚血性心疾患、脳血管疾患、その他の動脈硬化性疾患の増加が懸念されるというシナリオが描かれています。
 これに対する対策の第一が二次予防、すなわち特定健診の重視というわけです。もっとも、健診は従来から老人保健法や労働安全衛生法により実施されていたわけですが、新しいアイデアが導入されています。
 よくご存じのメタボリック・シンドローム(MS)の概念です。これまでは、糖尿病、高血圧、高脂血症という健康異常を個別的に評価し、それぞれの管理区分を設定し、個々の異常に対して保健指導や治療を実施するような方式だったわけですが、MSは、それらの病気が合併する人が多いこと、少ない異常であっても複数あると影響が大きくなること、内臓脂肪蓄積あるいはインスリン抵抗性という共通基盤があること、原因として生活習慣の影響が大きいことを強調しています。
 MSの診断は臍周囲径で男性は85p、女性は90pで篩(ふる)い分けすると判定基準を決められましたが、異論が出てきたのはご存知ですか。基本的には、ある閾(しきい)値で異常・正常を判定しようとすると、どんな検査でも偽陽性(間違って異常に分類されること)、偽陰性(間違って正常に分類されること)があります。
 次に治療ですが、MSの治療の基本は生活習慣、ライフスタイルを修正することになります。MSの本質ともされるインスリン感受性の低下に対して、運動が改善に大きく寄与することが指摘されています。
 では、具体的な治療目標をどう決めたらよいのか? 生活習慣の改善は実現可能性が重要になってきます。運動や食事療法により約1年で体重の5〜10%減少を目指すことが原則です。慢性疾患は長い期間をかけておこるので徐々に改善した方がよいという結果があります。例えば血糖も急激に改善すると眼底出血を誘発することもあります。生活習慣改善の大きな効果を示す報告もあります。糖尿病予備群約3000人に対し、4年間追跡調査を行った結果、薬は新規の糖尿病を30%抑えたのに対し、生活習慣病の改善ではなんと60%抑えることができたというのです。
 平成20年度から始まる特定健診・特定保健指導のなかで最も重要なことは実は生活習慣なのです。これまでの健診の考え方では検査項目がベースでした。運動や食事の評価はあまり重視せず、まず検査を行い、血圧・血糖値が高いなどの評価からすべての事業がはじまります。しかし、検査異常はじわじわと後からでてくるのであって、異常の原因をできるだけ早くとらえ対処する方が合理的です。
 健康診断の基準値設定は、臍周囲径でも述べたように、基準を変えると正常な人が異常に分類される場合があります(その逆もあり)。健康診断は基準値の設定により失うものと得るものがあるということを考える必要があります。特定のハイリスクの人だけを篩(ふる)い分けして、その人だけに対処するのでは、生活習慣病予備群を温存することになり、真の医療費適正化は困難と考えます。健診で見つかった人に限定せず、検査異常の有無に関係なく不適切な生活習慣は改善していくように集団レベルで取り組んでいくことも必要と思います。