広報誌「かけはし」

■2007年3月 No.426
時評
 

「ウエストサイズ ストーリー」

〜 内臓脂肪と生活習慣病 〜

大野 誠 氏


 1月22日、ホテルモントレ大阪で保健師連絡協議会研修会を開催し、日本体育大学大学院教授 体育科学研究科 健康科学・スポーツ医科学系 医学博士(内科)の大野誠氏が「ウエストサイズ ストーリー」をテーマに講演されました。


 過食や運動不足など生活習慣が主な原因で発症する生活習慣病には、飲めば根治するという特効薬はいまのところありません。薬で治療はできますが中断すると元に戻るため、根本的な治療にはなりません。疾病の原因に関わる内臓脂肪を減らすこと、そして蓄えないようにすることが、健康管理では重要なテーマです。
 腹囲が男性85p、女性90pになると、CT検査で撮影した内臓脂肪の面積が100cuを超えている可能性が高まり、これを超えると有病率があがります。
 世界保健機関(WHO)によると一番病気を併発しにくい「健康(標準)体重」はBMI22前後ですが、BMIが増えると疾病を併発するリスク(危険度)も増加します。たとえばBMIが25になると高血圧症、高中性脂肪血症のリスクが2倍。27をこえると糖尿病が2倍、29になると高コレステロール血症も2倍に上昇します。倹約遺伝子をたくさん持っている日本人は、欧米人に比べてわずかな体重増加でも生活習慣病を発症しやすいことがわかってきました。
 

  食事療法

 理想の健康食は日本古来の家庭料理だといわれていますが、低カロリーでバランスのよい食事を毎食作ることは至難の業です。そこで糖尿病患者さん向けに開発された治療食の宅配システムを活用して、自宅にいながら教育入院と同じように、本格治療食・健康食を「体験学習」して、理想的な食事の質・量・味を実感しましょう。食事は頭で覚えるよりも五感で覚えこむのが肥満解消の第一歩です。
 

  ベストウエイト(至適体重)

 健康診断で異常がないのが前提になりますが、身体活動能力が高く本人が一番活発に動ける体重がベストウエイトです。BMI21〜22は健康体重の一つの目安になりますが、これに個人差を加味してベストウエイト(至適体重)を求めます。20歳の頃の体重より7s未満の増加、体脂肪率が男性15〜20%、女性20〜25%程度など、本人に合ったベスト体重を減量の最終目標に設定します。
 一般に、平均すると肥満者は短命といわれますが、体重とは別に、身体活動能力が高い人は死亡率が低く、低い人は死亡率が高くなっています。減量の速度は月に1〜2s、体重ではなく体脂肪を減らしていきましょう。現在の体重を5〜10%減少させれば、多くの場合医学的な問題はほとんど解決できるといわれています。
 

  運動療法

 食事療法だけで減量すると、基礎代謝の低下、インスリン受態性の低下、筋肉量や骨量の減少などの問題がおこります。体重は減少しても必ず停滞期を迎えます。これらの問題を防ぐために、有酸素運動とレジスタンス運動を取り入れることが重要です。
 運動は、1日に合計で30〜60分、1分間に80〜90mの速度で歩き、1週間に合計150分以上を目標に、よく足を使う生活を身につけましょう。これに毎日15分程度の筋力トレーニングを加えるとさらに効果が期待できます。「いつでも、どこでも、1人でも」できることから始め活動的に過ごすことそして日常生活にとり入れ習慣にすることが重要です。減量の第一段階では食事療法、次は運動療法、最終段階では体重のリバウンドを防ぐために行動変容が治療の要になります。
 

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