広報誌「かけはし」
 
2007年1月 No.424

 
糖尿病と眼の話
 11月28日、健保連大阪連合会大会議室で健康セミナーを開催し、健保連大阪中央病院眼科部長塩谷易之氏が「糖尿病と眼の話」をテーマに講演されました。

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塩谷易之氏

 糖尿病患者数は増加の一途を辿っています。厚生労働省の糖尿病実態調査によると、平成9年では約690万人、平成14年には約740万人、予備群を入れると1620万人になり、成人の6人に1人が糖尿病の可能性があるといえます。また日本では糖尿病の合併症により年間3千人が失明しています。先進国での失明原因の1位にもなっています。人間の五感のなかで情報の8割は視覚からといわれています。大事な視覚を失わないためにも眼の管理をすることが大事です。
 糖尿病の合併症には網膜症・白内障・角膜症などがあります。糖尿病網膜症では軽度から重度まであり治療方法は変わってきます。悪化・進展する危険因子を避け予防することが重要です。
 比較的状況が軽い初期段階で毛細血管瘤、点状・しみ状出血、硬性白斑などの症状のある単純糖尿病網膜症は血糖コントロールをすることを優先します。そしてたとえ自覚症状がなくても定期的に眼底検査をすることが必要です。
 中度段階の増殖前糖尿病網膜症では、循環状態が悪化し、血管がつまったサインである綿花様白斑や網膜内血管異常がみられます。増殖期に入いると血糖コントロールの良し悪しに関係なく進行し、重度の視力障害が起こります。増殖糖尿病網膜症患者は30万人といわれています。治療方法としては網膜の障害部位を蛍光眼底撮影にて確認し、レーザーによる網膜光凝固を行い視力を温存します。それでもだめな場合、硝子体手術を行います。根本的な治療薬はなく、基本は血糖コントロールが大事です。罹病期間が長い・HbA1cが高値・高血圧・妊娠中も網膜症は進展しやすくなります。
 糖尿病網膜症管理のポイントは血糖値が高い場合、高血糖が長期に継続しないようにします。しかし急激なコントロールは網膜症を悪化させます。たとえば1カ月にHbA1cを1%以上下げるペースでは悪化するリスクが高くなるといわれています。数カ月かけ緩やかに継続的に下げていくことです。
 運動療法は増殖前までは問題ありませんが、増殖網膜症では新生血管が破れやすく、ちょっとしたことでも大出血を起こしやすい状態になるため運動の制限が必要です。また、通常は血糖値を徐々に下げて長期の管理をしていきますが妊娠中の場合は網膜症が進展しやすいため、早めに網膜光凝固を実施することによって網膜症を強制的に抑えることも必要です。一概に緩やかな管理をしておればよいとは限りません。
 前述の糖尿病実態調査によれば、医師から糖尿病といわれた人のなかで眼底検査を受けたことがある人は男性69%、女性70.8%で、3割は未受診となり、膨大な数の人が受けていないことになります。網膜症は密かに進行しています。受診率を100%に、限りなく近づけることが大事です。
 血糖値・HbA1cなどと網膜症の進展は関連があるのは間違いありません。初期の網膜症では視力低下などの自覚がありません。糖尿病の方はぜひ眼底検査を!