広報誌「かけはし」
 
2006年12月 No.423

 
喫煙は病気?
 10月18日、健保連大阪連合会大会議室で健康セミナーを開催し、健保連大阪中央病院内科医長武田悦子氏が「喫煙は病気?」をテーマに講演されました。

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武田悦子氏

 喫煙はニコチン依存症という病気です。たばこの歴史、たばこ税、喫煙の現状、健康障害、受動喫煙、ニコチン依存症管理料・禁煙治療に保険適用、禁煙のすすめについてお話します。
 たばこを吸うと、肺からニコチンが吸収され6〜7秒で脳の神経細胞を刺激します。ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリンなどの多くの神経伝達物質が放出され、陶酔感や緊張がほぐれ元気になったような気分になります。たばこは一気に血中のニコチン濃度を上げ、約2時間で半減するため再びニコチンを補給したくなります。このサイクルがニコチン依存を完成させます。このように身体的な依存と、目覚め時・会議中・酒の席・食後の一服など喫煙が生活のなかに組み込まれている心理的な依存、これら2つの依存でたばこ依存が成立しています。
 ストレス解消のため仕事後に喫煙しても、副交感神経・交感神経活動・心拍数・脳波からは、身体的にはストレスの解消になっていないことが分かりました。ただ喫煙することでニコチンの禁断症状がとれてリラックスしたような気分になっているだけと考えたらいいと思います。
 喫煙者は、たばこを吸わない人に比べて、全がんで1.65倍、喉頭がん32.5倍、肺がん4.5倍、食道がん2.2倍、消化器・泌尿器など、すべてのがんのリスクを高めます。喫煙者のがんの6割がたばこが原因といわれ、禁煙することで6割は予防できます。また、たばこ煙中のニコチン・活性酸素・タールなどにより、血管内皮障害・血小板凝集能亢進が起こり、心疾患や脳卒中を引き起こします。さらに骨粗鬆症リスクが高くなり、女性の場合は閉経が1〜2年早まります。老化が進み、しみ・くすみができやすくなります。たばこを1日20本吸うと顔のしわを10年分増やします。40歳の喫煙者は吸わない人の1.7倍、禿るそうです。喫煙はこのように全身に悪影響を及ぼします。母親が喫煙者だと子供は1.9倍虫歯になりやすく、乳児突然死症候群は両親が喫煙する場合は、吸わない場合に比べて4.7倍、危険が高まります。
 肥満・高血圧・運動不足よりも喫煙は死亡率を高めます。2000年のたばこ関連死は11万人です。未成年期の喫煙開始がニコチン依存症を、より早い時期に成立させています。吸い始めてしまうと禁煙することは難しいので、覚えるところから予防をしていくような対策や環境づくりが必要ではないかと思います。
 禁煙することで、血圧・脈拍が正常になり、酸素不足が解消され心臓発作の可能性が少なくなります。味覚も普通になり、2週間経過すると循環機能が改善します。1カ月後には咳や痰などが減り、風邪もひきにくくなります。1年後には狭心症になるリスクが喫煙者の半分になります。10〜15年経過すると肺がんのリスクが下がります。何歳から禁煙しても遅すぎるということはありません。
 世界でたばこ規制が広まり確実にたばこの消費は減少しています。日本でもようやく受動喫煙の防止、未成年の喫煙防止のために、健康増進法・WHOによるたばこ規制枠組み条約が発効し喫煙者に厳しい環境に変わってきています。禁煙治療も4月から保険適用となりました。大切な心や体の働きがニコチンに支配される前にたばこにお別れをしてはいかがでしょう。