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九谷直典氏 |
平成12年頃から精神障害に起因すると考えられる自殺者が年々増加し社会問題になっています。しかし、その一方では精神障害者を従業員として採用しているホテルが話題になったり、若年性のアルツハイマー病がテレビ番組で取り上げられるようにもなっています。正に21世紀は「心の時代」です。
ところで精神疾患は病因論的には『外因性』『心因性』『内因性』の3つに大別されます。
『外因性』疾患としては、がん・C型肝炎・甲状腺疾患などの治療薬の副作用としての「抑うつ」や急性アルコール中毒・慢性的な薬物の依存による精神症状などが考えられます。
脳の器質性疾患としては、頭部外傷後遺症・脳腫瘍・脳実質組織の萎縮などに伴うものがあります。アルツハイマー病など急速に脳の萎縮が進行する認知症に対する予防法はありませんが、高血圧症や高脂血症が「危険因子(リスク・ファクター)」と考えられる脳血管性の認知症に対しては、降圧剤や高脂血症治療剤の服用が発症予防上有効です。もちろん食生活の改善も重要です。なお、中高年以降はホルモンの分泌異常でもさまざまな精神症状が出現することがありますので「変だな」と思ったら専門医の診察を受けることが肝要です。
『心因性』疾患は、心にダメージを受けたときに生じます。「死ぬか生きるか」というような強烈なストレスを経験した後、突然の動悸・息切れ・不安感などの症状が反復長期化し、そのたびにストレスを受けたときの光景がまざまざと心に蘇るものを「P.T.S.D.」(心的外傷後ストレス症候群)と呼び、阪神淡路大震災の被害者の方々の多くはいまもそれに悩まされておられます。
病前性格と心因とが原因と考えられる「神経症」には、予期不安症状を伴う「不安神経症」(パニック障害)や自分自身が馬鹿げていると認識しながらも特定の事柄や儀式的行動にこだわり続ける「強迫神経症」、現実感を失ってしまう「離人神経症」、人・場所・疾病などを対象とする「恐怖神経症」など多様なタイプがありますが、ときにはそのいくつかが複合・合併することもあります。意識の変容や多重人格症状などを呈する「解離型」(解離性障害)と失立・失歩・失声などの身体症状に精神症状が転換する「転換型」の二型を有する「ヒステリー」も神経症に分類されます。『内因性』疾患としては、幻聴などの幻覚や被害妄想などの妄想を主症状とする「統合失調症」が代表的なものとして挙げられます。
一相性(単極性)と二相性(双極性)の二型が認められる「躁うつ病」も内因性疾患として分類されます。すなわち、内因性疾患とは遺伝的な要因や1〜2歳までの両親との関係性が根本的な原因となり、その後の学校での人間関係・恋愛・結婚・就職などの「人生の出来事(ライフ・イベント)」がきっかけで発症すると考えられるものをいいます。近年「初老期うつ病」が問題となっていますが、精神的・肉体的な耐性の低下が原因と考えられます。また従来は北欧で多く報告されていた「冬季うつ病」が日本でも徐々に報告されるようになっています。これは日照時間との関係が強いと考えられていますが、深夜まで起きていることの多い現代人の生活パターンが影響している可能性も否定できません。この疾患の特徴は、気分が落ち込むわりには食欲が落ちないという点です。
さて、睡眠障害(入眠障害・熟眠障害・早朝覚醒)は精神障害全般にかかわってきます。睡眠のリズムが狂うことは発病の原因や症状の長期化・固定化の原因にもなります。できれば昼食後は20分から30分は仮眠を取り、就寝時には枕の高さや硬さに気をつけ、自分にとって心地のよい音楽や香りを聞いたり、かいだりするのは良質の睡眠を得るためのよい方法です。
また、温めた牛乳やチーズなどの乳製品を少量摂取するのもよいでしょう。
「心の病」にならないためには妙なこだわりを捨て「知足」(足るを知ること)の精神で生きることが大切です。
すなわち、人にはそれぞれ得手・不得手があることを自覚しなんでも自分一人で抱え込まずに得意でない分野は得意な人に任せ、その人が得意でない分野で助けてあげればよいのです。
ヒトは「社会的動物(ソシアル・アニマル)」です。
仕事に張りや生きがいを感じるのは大切なことですが、仕事には「定年」(停年?)という「ゴール」が必ず待っています。そういう意味では、何を、どのような人たちと趣味としてやっているときに自分自身が最もリラックスできるのかということを現役時代から捜し、求め続けて行くことが高齢化時代をタフに生き抜いていくための最大の秘訣だと確信します。
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