広報誌「かけはし」
 
■2006年10月 No.421

 
うつ病について
   
 9月7日、薬業年金会館で心の健康講座を開催し、大阪厚生年金病院神経精神科部長手島愛雄氏が「うつ病について」をテーマに講演されました。
 
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●うつ病とは
 

手島愛雄氏

 うつ病が、感情障害あるいは気分障害といわれ、感情や気分の著しい異常な変化であると考えられるようになったのは、昭和60年頃からです。名称が変更され、問題が明確化されたのは、アメリカの精神医学会の考え方で、診断基準もでき、専門家以外の人々にも診断できるようになりました。うつ病が職場や家庭で話題にされる頻度が高まり、薬物療法における進歩とともに、精神科や心療内科を受診する患者も増加しました。
 このような変化の一方で、うつ病の心理学的理解や生活態度と病気との関係などについてはむしろ軽んじられてきた傾向があります。アメリカの診断基準は、うつ病の症状リストをつくり、そのうちの幾つかあればうつ病と診断しています。また血液や脳脊髄液などの関連性についての研究もされています。セロトニンの低下がうつの原因であるといわれ、それに作用する薬も開発され、治療も進歩しています。では、うつ病はセロトニン欠乏症でしょうか?風邪の人にアスピリンを飲ませたら風邪が治ったからといってアスピリンが不足しているとはいえません。精神の病気はそんな単純な錯覚をおこします。慢性化するものもあり、軽く考えてはいけません。咳が出る、熱が出る、たんが出るなどの症状を並べて、これが何の病気かと診断するのは難しいというように症状の羅列だけではうつ病の診断はつきません。
 うつ病にかかりやすい人は、社会の秩序を守ることに熱心で、世の掟を破るのを嫌い、他人に迷惑をかけたくない、思いやりのある、日本の社会を支えてきた人に多いといえます。従来日本では、うつ病(内因性うつ病)、うつ状態(気分感情障害全体)と区別していましたが、DSM─Wの診断基準(米国)ではうつ病とうつ状態の鑑別はできません。精神医学の研究方法で生物学的現象と、心理学的現象との関係は分かっておらず、診断基準があっても、うつ病の概念は明確化されていません。


●症状と対応策
 

 日本やドイツでは、心の奥底にある価値観が問題ではないかといってきました。うつ病のなかには、感情の変化に自覚が無く、自律神経失調症、高血圧、息苦しい、うっとうしい気分などがあり、まるで身体症状という仮面をかぶっているかのような「仮面うつ病」もあります。原点に戻り、うつ病を考えてみる必要があります。
 狭義のうつ病に特異的な症状は、「体験の異質性」です。異質性とは、「何かが失われた」という喪失感・欠落感で、その「何か」とは、自分にとって大切な何か、本来の自分を支えるもの、生き甲斐…であり、薬物療法や認知療法では解決しません。また一部の人だけの限られた特殊な問題ではありません。なんとも言いようのない重苦しい、自分でも今までと何か変った、何かなくなった、欠落感が伴う感じが、うつ病…と昔からいっていました。単純に休養し、薬を飲み、美味しい物を食べていても治りません。うつの人にとっての強いストレスには、大切な人・物の喪失、信じていたことが信じられなくなる、知識も情報も時間も不十分なのに選択決断を迫られる、秩序崩壊、自分の気持ちを支えていたものがなくなるなどがあります。転職・出世・結婚・出産なども、ストレスになります。どう対応すればよいかといっても、普遍的な問題に、普遍的な答えがあるとは限らず、個人に合う答えしかありません。
 人としての生き方、どういう方針で生活するのか?自分に合うものを探すことです。それには、日本にある昔からの「道」を極めることです。例えば、書道・華道・茶道・剣道・柔道・将棋・囲碁・俳句・短歌など打ち込めるものをつくることです。心の修養になることに熱中することで、患者は落ちつき、そして再発予防にも繋がります。