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手島愛雄氏 |
うつ病が、感情障害あるいは気分障害といわれ、感情や気分の著しい異常な変化であると考えられるようになったのは、昭和60年頃からです。名称が変更され、問題が明確化されたのは、アメリカの精神医学会の考え方で、診断基準もでき、専門家以外の人々にも診断できるようになりました。うつ病が職場や家庭で話題にされる頻度が高まり、薬物療法における進歩とともに、精神科や心療内科を受診する患者も増加しました。
このような変化の一方で、うつ病の心理学的理解や生活態度と病気との関係などについてはむしろ軽んじられてきた傾向があります。アメリカの診断基準は、うつ病の症状リストをつくり、そのうちの幾つかあればうつ病と診断しています。また血液や脳脊髄液などの関連性についての研究もされています。セロトニンの低下がうつの原因であるといわれ、それに作用する薬も開発され、治療も進歩しています。では、うつ病はセロトニン欠乏症でしょうか?風邪の人にアスピリンを飲ませたら風邪が治ったからといってアスピリンが不足しているとはいえません。精神の病気はそんな単純な錯覚をおこします。慢性化するものもあり、軽く考えてはいけません。咳が出る、熱が出る、たんが出るなどの症状を並べて、これが何の病気かと診断するのは難しいというように症状の羅列だけではうつ病の診断はつきません。
うつ病にかかりやすい人は、社会の秩序を守ることに熱心で、世の掟を破るのを嫌い、他人に迷惑をかけたくない、思いやりのある、日本の社会を支えてきた人に多いといえます。従来日本では、うつ病(内因性うつ病)、うつ状態(気分感情障害全体)と区別していましたが、DSM─Wの診断基準(米国)ではうつ病とうつ状態の鑑別はできません。精神医学の研究方法で生物学的現象と、心理学的現象との関係は分かっておらず、診断基準があっても、うつ病の概念は明確化されていません。
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