我が国の現在の医療給付費は28兆円。現行制度のままでいくと、高齢社会のピーク時である2025年には、56兆円に膨らむと試算されており、国の一般会計の予算規模である約80兆円の3分の2を占める計算となるとのこと。
このことについては、平成18年6月14日に可決成立した医療制度改革法の国会への提出前に、医療費の伸び率をGDPの伸び率の範囲内に抑えるべきとの財界筋の意見が財政諮問会議の場で提言された際に、新聞等でも大きくとりあげられ、まだ記憶に新しい。
我が国より一足先に高齢化社会に突入したヨーロッパ諸国では医療費の伸びが経済発展に悪影響をおよぼしかねないということで、すでにこの医療費の伸び率管理制度が導入されている。しかし英国では、この制度の導入により医療費に要する予算が圧縮され、医師や医療機関に影響が出て、すぐには医療を受けられない待機患者が続出する等の問題点が指摘されている。
こういったことを踏まえ、我が国においてはこの方策を見送り、医療制度改革法にメタボリックシンドロームの改善を図ることを主眼とした医療費適正化対策の推進が盛り込まれた。
このための具体策の指針として、8月7日に厚生労働省から「標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)」が示された。いよいよ、平成20年4月から医療保険者に義務付けられた40〜74歳までの加入者の健診・保健指導の実施に向け、準備事務を含め動き出したところである。
以上の一連の動きを見る限り各保険者は、健診等の義務化に精力的に取り組むべきところではあるが、今回の対策を実行した場合、かえって医療費が増えるのではとの消極的な意見が新聞・雑誌等で散見され、保険者のやる気に水をさしている感がある。現に各保険者のスタンスは全体の動きを見る様子見の域から一歩も出ていないというのが実情といえる。
またこの事業を実施するうえで被扶養者の健診等を行う条件が整備されていない点もその一因といえる。
国は、一足先に高齢化社会に突入したヨーロッパ諸国の医療費増に対しての対応策と問題点を見つめ直し、長期的視野にたって論議を重ねて結論を導き出した。したがって各保険者は、医療費適正化の推進策の目玉といえるメタボリックシンドロームの改善に向けた健診等の義務化に精力的に取り組んでいく必要性を再認識する必要がある。その上にたって、特定健診・保健指導を行うための条件整備として、当該事業のアウトソーシングを行いやすい事業者の育成を国に望むところである。 |