広報誌「かけはし」
  
■2006年8月 No.419

遺伝するがん遺伝しないがん
   
 7月10日薬業年金会館で「遺伝するがん遺伝しないがん」をテーマに、健保連大阪中央病院消化器科部長石川秀樹氏による健康教室が開催されました。
 
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石川秀樹氏

 人はみな高血圧・糖尿病・肥満など、病気になりやすい体質をいくつももっています。そのひとつとして、がんになりやすい体質もあります。家族性乳がん・家族性大腸腺腫症・遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)など、遺伝子の変異によってがんになりやすい体質もわかってきました。しかし、がんは遺伝だけでは発症しません。がんは遺伝(体質)と環境の組み合わせで発生します。

●環境と遺伝(体質)
 

 環境要因を強く受けるがんには、喫煙が主な原因の肺がん、B型C型ウイルスが主な原因の肝がん、パピローマウイルスが主な原因の子宮頚がん、酒・喫煙が主な原因の食道がんなどがあり、これらのがんは、生活習慣改善により予防できる可能性が大きいです。しかし、遺伝(体質)要因が強いがんでも、環境に気をつければ発病をある程度は予防できます。「乳がん」については、40歳未満の若い年代で乳がん・両側の乳がん・卵巣がんになった血縁者がいる場合は、家族性乳がんの可能性があります。自己検診・マンモグラフィ・超音波検査で早期発見をしましょう。「家族性大腸腺腫症」は、10〜20歳までにポリープができて、20歳頃から大腸がんがみられ、40歳で約50%、60歳で90%以上が発がんします。
 通常染色体優性遺伝性疾患で、原因はがん抑制遺伝子(APC遺伝子)の異常です。兄弟がともに家族性大腸腺腫症の方がいましたが、兄はスポーツマンで体力があり、弟はあまり運動をしていなかったところ、体力のある兄の方がポリープが少なかったケースがありました。このように同じ遺伝子・体質をもっていても、環境を変えることにより大腸がんになる確率を下げることができます。
 「遺伝性非ポリポーシス大腸がん」は、日本では6〜10万人がこの体質をもつと考えられています。この体質をもっているかどうかは遺伝子検査をするとわかります。発がん浸透率、すなわち一生に一度がんを発生するリスクは男性で90%、女性では80%程度です。HNPCCは、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列の変異が原因で、大腸以外にも、子宮内膜(体部)・胃・小腸・腎孟・尿管などにがんが発生しやすいです。

●大腸がんの発生に 影響する環境因子
   日本人の大腸がんが増えた理由は、動物性脂質・アルコール摂取量の増加・運動不足(肥満)が関係している可能性が大きいと考えられています。女性ががんで死亡する原因は、2003年には胃がんに代わり大腸がんがトップになりました。
 がんを促進する因子として、アルコール・赤身肉のとり過ぎがあり、卵・脂肪・肥満・喫煙も可能性があります。また、抑制する因子には、野菜や運動がよいといわれています。野菜の摂取量・食物繊維が多いと、大腸がんが減少すると報告もあり、緑黄色野菜に多く含まれているカロテンによる、がん細胞増殖抑制の可能性もあります。
●遺伝(体質)により、できやすいがんの特徴
 

 遺伝子検査を受けてHNPCCの体質をもっていることがわかっても、症状が出る前にがんを見つければほとんど治りますので、それだけに早期発見・早期治療が重要です。また、環境を変えることにより、ある程度発がんを予防することもできるので、生活習慣の見直しとそれを実行することが大切です。