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久保正治氏 |
動脈硬化性疾患のなかでも、高脂血症は糖尿病、高血圧と並んで重要な位置を占めていますが、我が国では豊かな食生活と自動車の生活習慣が定着して以来、国民の血清コレステロール値は益々増加してきております。我が国の青年が中高年齢になる頃に、「心筋梗塞は国民病」といわれたかつての米国のような状態となることが危惧されます。
かつて高脂血症が大きな健康問題であった米国では「コレステロールに関する国民教育プログラム」の実践により、血清コレステロール値は改善し、それに伴い心疾患死亡も減少してきました。我が国で生活習慣病という呼称が定着し、医療制度面からも動脈硬化疾患予防に力を入れる診療体制がとられるようになっており、その効果に期待したいところです。 |
●コレステロールと中性脂肪の治療
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食事療法から始めます。過体重があれば減量することが一番重要です。ヒトの血清コレステロールは体内で合成される割合が多いので、その合成促進食品である肉類、脂肪、飽和脂肪酸、フルーツを避けるようにします。これらは一般的に美味しいものが多いですが、一方、低脂肪性で野菜中心の大変美味しい和食もありますので、食べ物の嗜好をこちらに変えるのが一番と思います。
運動療法により内臓脂肪は減少し、中性脂肪も減少し、善玉といえるHDLコレステロールが増えます。最初は体力にあった運動を週3回から始めます。運動をしていない方にはウォーキングを勧めます。体力がついてくればより運動強度の高いスポーツなどに進みます。
しかし、これらの生活習慣の改善によっても改善しない場合は内服治療を併用することになります。20年ほど前に我が国で開発されたコレステロール合成阻害薬がきわめて有効です。いまでは進化したさらに有効性の高い薬品が登場しており、高コレステロール血症に起因する動脈硬化症の進展の防止や退縮が期待できるまでになってきました。動脈硬化学会の治療目標(2002年度版)によりますと、コレステロール240r/㎗、LDLコレステロール160r/㎗以下にすることが目標ですが、糖尿病、高血圧、喫煙などの冠危険因子がある場合にはコレステロールを200〜220r/㎗、LDLコレステロールを120〜140r/㎗までに低下させること、すでに狭心症や心筋梗塞がある場合にはコレステロール
180r/㎗、LDLコレステロール100r/㎗以下にすることを推奨しています。 |
●Beyond cholesterol
メタボリックシンドローム
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コレステロールの対策はずいぶん進んでいますが、一方、中性脂肪に関してはまだまだといえます。高トリグリセリド血症は糖尿病、高血圧とともにしばしば合併しますが、これらはたまたま偶然に合併したのではなく、内臓脂肪蓄積がもたらす一連の病態であることがわかってきました。
この病態を集団検診時などのときにも見いだすことができるように、ウエスト周囲径、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高血圧などの簡便な指標を使った診断基準を関連8学会が集まって作成し、「メタボリックシンドローム」診断基準として2005年5月に発表しました。新聞やテレビでも取り上げられましたので記憶されている方も多いと思います。これらがそろって異常を示す場合には、内臓蓄積肥満が背景に潜んでおり、動脈硬化性疾患のリスクが高い状態であると警告するものです。今後はこのような症例の早期発見と治療を通じて動脈硬化性疾患の予防につながるものと考えています。
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