広報誌「かけはし」
  
■2005年11月 No.410

治すから防ぐへ・新しい予防医学の取り組み
 

 〜生活習慣予防に関連する遺伝子検査について〜

   
 10月21日、薬業年金会館において「治すから防ぐへ・新しい予防医学の取り組み〜生活習慣予防に関連する遺伝子検査について〜」と題し、医療法人同仁会京都九条病院理事長の松井道宣氏による健康教室が開催されました。
 
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●遺伝子も病気の一因

松井道宣氏

 人間の細胞の核には染色体があり、そこに遺伝子が存在します。遺伝子はDNAで成り立っており、アデニン、グアニン、シトシン、チミンという4つの核酸塩基が遺伝暗号を構成しています。遺伝暗号の組み合わせは一人ひとり異なっており、DNAにも違いが出るため、体質の差ができます。
 病気の原因は多様ですが、遺伝的な要因と生活習慣や環境その他の後天的な要因が関わって発症します。たとえば、最大の発がん原因はタバコで、原因の20〜30%を占めます。その次が食物。これらが細胞の核を傷つけ、がん細胞が発生します。がん同様、高血圧や糖尿病などの生活習慣病にも遺伝的要因と外部環境要因、生活習慣要因が関連しています。

  
●遺伝子検査の取り組み
   私たちの同仁会クリニックでは、生活習慣病の予防、治療に特化した診療を行っています。その目的は健康寿命と平均寿命を近づけること。診療の一環として約2年前からDNA検査を始めました。この検査はmyDNA検査といい、健康に影響を与える遺伝子の変異を確認し、病気の発病や重症化、合併症を予防すると同時に健康維持のための正しい食生活と生活習慣を提案するサービス。遺伝子のなかの核酸塩基の配列を分析し、変異を調べます。検査項目は解毒作用、抗酸化作用、組織再生、肥満、糖尿病に関わる遺伝子です。
  
●遺伝子を知って積極的な予防を
 

 このうち、抗酸化作用はMnSODという遺伝子によって有害酸素による細胞損傷を一時的に食い止める作用。MnSODに変異がある場合は心血管疾患やがんを誘発する可能性が高くなるので、それに対応した予防策を指導します。
 肥満に関わる遺伝子はADRB3とUCP1の2つ。ADRB3は節約遺伝子とも呼ばれるもので、脂肪分解能が先天的に低く、脂肪を体内に容易に蓄積します。UCP1はほ乳類の褐色細胞に存在し、余剰脂肪を分解させてエネルギー消費を増加させる遺伝子。この両方に変異があると肥満発生の危険度が高まります。
 糖尿病に関係する遺伝子はMTP。これに変異があると、MTPの発現量が増加、総コレステロールや悪玉コレステロール、中性脂肪、アポリポたんぱく質が高値になり、高脂血症や肥満を伴う糖尿病の誘発危険性が上昇します。このような人は食習慣と生活習慣に特に注意が必要です。
 DNA検査は、唾液の採取で調べられる簡単なもの。生まれ持った性質や将来の発病リスクの程度がわかり、より積極的な予防対策が可能になります。こうした情報を通じ、より効果的な健康へのアドバイスを行っていきたいと考えています。