広報誌「かけはし」
  
■2005年9月 No.408

高 度 先 進 医 療

〜糖尿病に伴う足の血管新生療法と心不全への心筋再生治療〜
   
 「高度先進医療〜糖尿病に伴う足の血管新生療法と心不全への心筋再生治療〜」をテーマに京都府立医科大学循環器内科教授の松原弘明氏による健康教室が、8月5日薬業年金会館で開催されました。

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●注目の再生医療

松原弘明氏

  いま、高度先進医療や再生医療は非常にブームになっています。その背景には、ミレニアム・プロジェクトとスーパー細胞の発見、さらにバイオビジネスの進展などがあります。2000年に政府主導で始められた「ミレニアム・プロジェクト」では「発生・分化・再生プロジェクト」で細胞治療の研究が進められることになりました。また、何にでも分化する組織由来多能性幹細胞(スーパー細胞)の存在が判明、これを難病治療に応用しようという動きが出てきました。再生医療には心筋梗塞や末梢動脈閉塞症などに応用する「血管新生治療」と「心筋再生治療」があります。血管新生治療は臨床への適用例がありますが、心筋再生治療はまだ適用されていません。

  
●血管を造成し、血流回復
 

  厚生労働省が高度先進医療、再生医療で初めて承認したのが閉塞性末梢動脈硬化症の治療です。これは糖尿病患者に多く、腸骨動脈や大腿動脈などに動脈硬化性狭窄をきたして血行不良になった結果、間欠性跛行や歩行時の下肢疼痛、下肢潰瘍、壊疽などを起こします。通常は狭窄部位を風船で広げたり、バイパス治療を行いますが、閉塞を繰り返し、壊疽を起こした場合は下肢切断に至ることも。これに対し、骨髄液から採取した骨髄幹細胞を移植、血管新生治療を行います。脚の筋肉に筋肉内注射で骨髄幹細胞を移植することで、筋肉内に毛細血管が造成され、血流が回復します。この方法なら、糖尿病性の足の病変も治療できます。
  再生医療が次に目標としたのが心臓病。心筋梗塞などの治療後も胸痛を伴う患者に応用します。心臓の場合、心臓に直接骨髄幹細胞を移植、新しい血管を造成することによって血流や心臓の動きを改善します。この治療によって1日10回ニトロを服用していた患者さんの胸痛が劇的に改善、ニトロの服用もほとんどなくなった例があります。心臓の血管新生治療は日本国内では5例実施されており、安全性、有効性が確立されています。ドイツや中国、アメリカなども開始し、現在は欧米の方が普及しています。

  
●心臓移植に代わる治療へ
 

  なお、心臓移植が必要な心不全治療には血管新生治療に加え、心筋の形成が必要です。現在、人の心筋や骨格筋からスーパー細胞をとりだし、心筋に分化させることに成功しています。すでにこれを利用し、心臓移植に代わる細胞治療が研究されています。京都大学の探索医療センターは、医師主導の臨床治験のモデルセンターです。ここでは心臓、糖尿、肝臓など6つのプロジェクトが展開されていますが、細胞移植による重症心不全への再生医療は今年の厚生労働省の推進事業にも選ばれ、5年以内の実現を目指して現在研究が進められています。