広報誌「かけはし」
  
■2004年6月 No.393

ピロリ菌と胃、十二指腸潰瘍
   
 「ピロリ菌と胃、十二指腸潰瘍」をテーマに、健保連大阪中央病院医務局長の大野秀樹氏による健康教室が5月19日、薬業年金会館で開催されました。
 
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●胃、十二指腸潰瘍の原因 ヘリコバクターピロリ菌
 

大野秀樹氏

 従来、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因はストレス、タバコ、お酒などとされていました。しかし、ヘリコバクターピロリ菌が発見されてからは、菌による胃の炎症が慢性的に起きている場合に飲酒や喫煙、ストレスを誘因に発生すると考えられるようになりました。ピロリ菌が胃潰瘍の原因として占める割合は約7割、十二指腸潰瘍では9割程度で、その他の原因としては鎮痛解熱剤があります。
 ピロリ菌には胃炎を起こす毒素があり、これが胃の組織障害を起こすと考えられていますが、それ以外にも様々な要因が重なって胃潰瘍や十二指腸潰瘍が起こると考えられています。ピロリ菌の感染ルートは口から口の経口感染で、特に衛生環境の悪いところで感染率が高いことがわかっています。また、家族の多い人、親に消化器疾患の既往がある場合などはピロリ菌の感染率が高いとされています。

  
●診断方法も多様に
  
   ピロリ菌感染診断法は、大別すると内視鏡による生検組織を用いた判定法と、内視鏡を用いない判定法があります。生検組織による判定法には「迅速ウレアーゼ試験」「組織鏡検法」「培養法」があり、いずれも胃の内視鏡が必要です。手軽なのは内視鏡を用いない「尿素呼気試験」で、これは弱い放射性元素C13を持った尿素を口から飲み、呼気を調べるもので採血なども不要です。また「便中抗原測定」は、特異性も感受性も高い検査方法で、昨年の日本ヘリコバクター学会のガイドラインで追加されました。
 
  
●除菌治療が再発防止に効果的
  
   ピロリ菌が陽性で胃潰瘍、十二指腸潰瘍があるなど一定の条件を満たした人には除菌治療をすすめます。これは一昨年保険診療が認められました。除菌には3種類の薬剤を1週間朝晩きちんと飲みます。除菌率は85〜90%、再感染率は約1%といわれています。除菌できれば潰瘍の再発率も維持療法などに比べると、格段に低下します。ただし、除菌治療と潰瘍の治療は別です。除菌後も潰瘍は治るまで治療を継続する必要があります。
 除菌効果の判定は診断法のうち、鏡検法、培養法、迅速ウレアーゼ試験、尿素呼気試験、抗体測定のいずれかで行います。複数検査すれば精度が上がり、特に尿素呼気試験を含む方が望ましいとされています。重要なのは除菌効果の判定時期で、除菌治療終了後4週以降に実施します。
 WHOはピロリ菌を発がん性ウイルスとしてレベル1に指定しました。ピロリ菌が陽性で潰瘍の人には除菌治療をおすすめします。