広報誌「かけはし」
 
■2003年10月 No.385

 
出社拒否について
   
 「出社拒否について」をテーマに、大阪府こころの健康総合センター診療課長の漆葉成彦氏による心の健康講座が、9月4日、薬業年金会館で開かれました。
 
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●近年増加傾向に 回避型職場不適応
 

漆葉成彦氏

   遅刻常習者、無断欠勤者、出社拒否はどこの企業にもある問題です。従来はすべて問題社員として片づけられていましたが、そこには様々な問題があります。仕事や対人関係など職場環境の問題、家族の問題、能力や心の病気など本人の問題もあります。出社拒否はこれらが複雑に絡まって起こる現象です。今後、この種の問題は増加すると思われますが、こうした人たちを甘えやさぼりとして厳しく対処することは、問題解決にはつながりません。  職場恐怖から出社できない人を職場不適応症候群の中核群と呼びます。職場不適応症候群は「職場要因の変化に対して、個人要因の適合がうまくいかずに臨床症状を呈したもの」と定義されます。  これに対し、最近増えているのは、個人要因の関与が高い回避型の職場不適応症候群。回避型は問題を避け、ひきこもる傾向にあります。彼らは、きっかけがはっきりしない人が多い、出勤葛藤が少なく見える、うつ症状が目立たない、身体症状が多い、復職のタイミングの見極めが難しい、などの特徴があります。  回避型の職場不適応症候群の原因は能力的な問題や、性格的な要因など様々ですが、本人だけの問題で起こるわけではありません。職場や家族、医師など周囲を取り巻く人たちとの悪循環によって引き起こされることもあります。最近は就労経験のある社会的ひきこもりが増加しています。本人自身にそれほど問題はなくても、そういう状況に陥ることはあると考えてください。

●ストレス耐性を強め 開かれた支援体制を
     こういう問題が増えてきた背景には、思春期が長くなったこと、目的や人生観の喪失、社会構造の変化といった理由があげられます。思春期はアイデンティティが確立できておらず、視野が狭いという特徴があります。ふつう、社会とのかかわりの中でそれが修正されて大人になっていきますが、いまは社会とのつながりが希薄なので、大人になり切れていない人が多いというわけです。彼らはストレス耐性(ストレスに対抗する資源である、処理可能感、把握可能感、有意味感に富んでいること)が低いともいえます。このような環境は落ちこぼれ感を生じやすく、ひきこもりを引き起こすと考えられます。  回避型の職場不適応を予防するにはストレス耐性を強めることのできる職場づくりが必要です。それにはストレス状況を見極めること。さらに薬物療法と休養のみでは不十分で、心理療法が必要です。また、職場、家族が十分に理解し、悪循環に陥らないことが重要です。職場、家族、医師が一体になって本人と向き合い、開かれた支援体制を築くことが大切です。