広報誌「かけはし」
  
■2003年7月 No.382

心血管疾患に伴う胸痛
   
 「心血管疾患に伴う胸痛」をテーマに、健保連大阪中央病院循環器科医長の柳光司氏による健康教室が6月9日、健保連大阪中央病院で開催されました。
 
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動脈硬化が起こす狭心症、心筋梗塞
 

柳 光司 医長

 胸痛は、さまざまな病気が原因で起こりますが、心臓病が原因となるものの筆頭が狭心症、重篤なものとして心筋梗塞があげられます。他には心膜炎、僧帽弁逸脱、大動脈弁膜症などがあります。他には解離性大動脈瘤のように動脈が原因のもの、肺塞栓のように肺動脈から起こるもの、他の臓器に起因するものなど、胸痛の原因は多様です。肺塞栓はエコノミークラス症候群としてメディアなどでも取り上げられ、よく知られるようになりました。長時間同じ姿勢をとり続けることで足の血管にできた血栓が、肺動脈に詰まって発生します。予防には長時間同一姿勢をとり続けない、脱水を予防するといったことがあげられます。
 狭心症や心筋梗塞は、虚血性心疾患と呼び、冠状動脈の狭窄や塞栓によって発生します。狭心症では胸骨下の絞扼感や圧痛、左上肢の痛みなどを感じます。痛みは運動や急激な寒さ、興奮、食後などに誘発されます。日本人に遺伝的に多い冠れん縮性狭心症(異型狭心症)は朝2時から7時ぐらいの早朝安静時に頻発します。心筋梗塞は冠動脈の急激な塞栓によって発生し、激烈な疼痛が数時間以上継続します。その大部分は成長過程の動脈硬化層が破綻し、そこに血栓ができて起こることが、近年の研究でわかっています。

  
痛みを伴わない無症候性心筋虚血
  
   胸痛は生命にかかわる病気に多く見られますが、危険な状態ながら痛みを伴わない無症候性心筋虚血が高割合で見られます。そこで、診断が重要になってきます。まず大切なのは問診。歯痛や肩こり、のどの違和感などの非典型的な症状、呼吸困難やふらつき、手足の冷感などを見逃してはいけません。また、糖尿病や高血圧、高脂血症、肥満、喫煙などの危険因子や頚部動脈や下肢動脈などに動脈硬化の所見があれば、冠動脈の動脈硬化を疑う判断材料になります。これらの症例に負荷心電図、ストレスエコーなど負荷心筋シンチグラムが陽性である場合、高確率で無症候性心筋虚血と診断されます。こうした判断は一般の企業の診療だけでは困難なので、専門施設との連携が望ましいといえます。
 狭心症や心筋梗塞の治療法にはACバイパス手術のほか、バルーンを使って冠動脈の狭窄部を拡張する径皮的冠状動脈形成術(PTCA)、方向性冠動脈粥腫切除術(DCA)などがあります。PTCAでは拡張された血管が元の形に戻ろうとすることなどが原因で再狭窄が起こることがあります。再狭窄予防のためには、ステントを用いたり、投薬が行われています。また、2次予防として生活習慣病の危険因子の改善が必要です。こういった面でも保健指導は一層重視されるようになると考えられます。