広報誌「かけはし」

■2002年7月 No.370
時評
 「高脂血症と動脈硬化について」をテーマに、健保連大阪中央病院副院長の久保正治氏による健康教室が6月11日、薬業年金会館で開催されました。

動脈硬化症のリスクファクター

久保正治副院長
 動脈硬化症を引き起こす原因には多くのものがあります。その中でも、高コレステロール血症は、かつては改善する事の出来ないものでありましたが、近年になって安全で優れた治療薬が登場して治療が容易になってきました。
 加齢、男性、有家族歴などは不可逆性のリスクファクターです。女性ホルモンは逆で、動脈硬化症に対しては防御的に働く事が知られており、閉経前の女性に動脈硬化症が発症する事はまれです。一方、高脂血症は糖尿病やHDL低値とともに改善する可能性があるもので、さらに、喫煙、高血圧、肥満症などの改善可能な項目と併せて、改善することにより動脈硬化症の発症を抑えるのが目標となります。

動脈硬化症と脂質代謝


 ヒトに於いてはコレステロールの70%は体の中で作られるとされておりますが、これと中性脂肪がリポ蛋白粒子を形成して血中に存在しています。高血圧や喫煙などによって血管内皮が一旦損傷されると、そこから動脈硬化巣ができます。一方、HDLはこの蓄積したコレステロールを動脈硬化巣から肝臓に持ち帰る逆転送系として働くので、善玉コレステロールと呼ばれています。
 動脈硬化性疾患を来す代表的疾患として、家族性高コレステロール血症があります。悪玉コレステロールであるLDLを取り込む、細胞の受容体が遺伝的に欠損する病気で、腱黄色腫や眼球の角膜輪の形成の他に、若年性に動脈硬化症が発症する疾患として知られています。生活習慣から起こってくる高脂血症でも程度は軽いものの同様の変化を来します。


高脂血症の治療は生活習慣改善から


 生活習慣の改善で高脂血症が大いに改善した実際の症例を見ていただきます。体がだるいとの症状を訴えて来院された糖尿病の男性症例ですが、高脂血症も同時に持っておられました。短期間の入院中に食事療法を覚えていただいて、数ヵ月の間に体重を6キロ減していただきましたところ、コレステロールは240mg/dl程度の改善でしたが、中性脂肪は正常域まで大幅に低下しました。この時点で、コレステロールを下げる薬を使用するのが良い治療法と思います。10数年の使用実績があり副作用も少ないことが知られており、動脈硬化の進展を緩和できる事も知られています。ほかにコレステロールを下げる特殊治療として、血漿交換療法(LDLアフェレーシス)もあります。これは、単にコレステロールを低下させるだけではなく、古い過酸化などによる変性したリポ蛋白が新しいものに置きかわるので、動脈硬化巣の進展を起こしにくくします。
 この様に、適切な診断を下せば、その治療法はかつてとは比べものにならないほどに選択肢が多くなっており、安心して治療を受ける事のできる良い時代になってきたと思っています。