広報誌「かけはし」
■2001年10月 No.361
時評
●米同時多発テロと医療保険制度改革
   最悪のタイミング
   米国で同時多発テロが起きたとき、「医療保険制度改革もハイジャックか!」と飛躍した連想をした。制度改革がヤマ場にさしかかったこの時期、いかにもタイミングが悪い。
 つづく米英のアフガン空爆、報復テロの恐怖。世界が激動する中、一部のマスコミには「世界恐慌」などの物騒な活字がチラホラしはじめた。対テロ軍事行動が長引けば世界経済はさらに泥沼化する。
 日本では経済の長期低迷から、企業のリストラが進んでいる。あおりで健保組合の保険料収入は目減りする一方だ。
 改革スケジュールの先行きも不透明だ。制度改革の作業がテロ対策のあおりでストップしているとは言わないが、マスコミの報道を見てもかすみがちだ。
   
   患者だけが負担増?
   改革の方向も気がかりだ。
 厚生労働省が9月25日に公表した改革の試案は「健保本人負担を2割から3割に引き上げ」「老人保健制度の対象を70歳以上から75歳以上に段階的に引き上げ、2割負担」と患者負担のアップをはっきり打ち出している。
 それなのに、診療側に負担を求める診療報酬について厚労省は「最近の経済動向、保険財政の状況等を勘案して見直す」と、いかにもあいまいな表現である。日本医師会は9月21日「経済動向から見て、来年度は報酬引き上げを求めない」との方針を決めたという。多くのマスコミの論調が「3割負担は診療報酬引き下げが条件だ」というのにである。
 健保連が悲願とする拠出金制度の廃止もいまや風前の灯だ。
   
   「三方一両損」
   小泉純一郎首相は医療保険制度改革に大岡裁きの「三方一両損」を引き合いに出して、国民すべてに「痛みを分かち合うよう」求めている。一両ずつ損をする「三方」とはだれとだれなのか。試案で、患者と保険者が対象にされているのは、はっきりしている。残るひとつは医療機関なのか、国なのか。厚労省は「四者四泣きでなければ、国民皆保険制度を維持できない」ともいっている。国民すべてが痛みを分かち合い、それぞれがエゴを抑えなければ医療保険制度はこの先、大変なことになる。
 それにしても、こんどのテロに対してアメリカ国民の結束ぶりは並々ならぬものがある。軍事行動が長期化しても「テロリストに勝利するまで、国民すべてが痛みを分かち合い、耐え抜く覚悟だ」と外電は伝えている。 
 「テロ対策」も「医療保険制度の改革」も、人命と経済に深くかかわる問題であることに違いはない。
  (仁)