広報誌「かけはし」
■2001年5月 No.356
 
★ 改革の要は医療費抑制 ★
「公平公正な制度」目指す−
健保連は4月12日、「今後の制度改革に向けての考え方」を公表した。老人医療費の伸びの抑制を中心とする「医療費の合理化と適正化」を最重点課題とし、総額抑制方式、患者の特性に応じた包括的評価体系、老人医療患者負担の定額制廃止などを提起している。焦点となる高齢者医療制度については、健保連が主張する「突き抜け方式」の具体的イメージを提示した。「考え方」の要旨は次のとおり。

 改革の理念・目標
社会保険方式を基本
   社会保険方式を中核とする皆保険体制を基本的に損なうことなく維持し、公平な負担による高齢者医療制度を創設し、持続性のある安定した基盤に立って、良質で効率的な医療を国民の生涯にわたって確保する。
患者中心の医療の実現
   健保組合をはじめとする医療保険者は、患者と加入者の利益を最優先し、患者中心の医療の実現を図る。患者が自ら選択し、決定できるようITを活用した医療情報の提供など保険者機能の強化を図る。

 現状認識
(1) 現在の医療費の伸びが続けば、どのような制度を創ろうと全く持続性はない。高齢者医療を中心に医療の合理化、適正化を図り、医療費を抑制することが改革の最大の課題である。
 もう一つの改革の中心は、老人保健拠出金等による負担が保険者の負担の限界を超えており、拠出金制度を廃止し、新たな高齢者医療制度を構築することである。
(2) 現行の老人医療費の伸びを前提に、各方式について試算を行ったところ、いずれの方式を採用しても、数年で財政が行き詰まることが予測された。一方、自明のことであるが、公費投入の量が制度の安定を大きく左右することがわかった。
(3) 制度を安定させるには、老人医療の水準や公費投入の規模など前提条件を揃え、それぞれの合理性、効率性と負担の公平が実現しているかどうか検討する必要がある。
(4) これらに関連して、医療の質の維持・向上を図りながら、医療費の抑制に取り組む必要がある。同時に、医療提供側の合理化、コスト削減といった経営努力を促す条件を整える必要がある。
(5) 改革のスタート時点における状況を明確にし、関係者が共通の基盤にたって検討できるようにする。これに関連し、現行拠出金の下で発生している未払い債務を公費負担により解消することが必要である。

 具体的な対策
医療費の合理化と適正化
   高齢者医療を中心に医療の合理化、適正化を図り、医療の質の維持・向上を図りながら、医療費を抑制することが改革の最大の課題となっている。そのためには、@総額抑制の検討、A入院・外来の診療報酬のあり方、B医療法改正に基づく病床区分および病床規制の徹底、C中医協における課題の検討促進などあらゆる合理化・適正化が行われなければならない。終末期医療のあり方についても検討する。
新たな高齢者医療制度の創設
@ 新たな高齢者医療制度は、A、生涯を通じて一貫性のある医療保障が受けられること、B、明確な財政、運営責任のもとで効率的な運営が行われること、C、公平な負担と給付の関係が国民に分かりやすい仕組みであることが必要であり、特に、少子高齢化の進展の中で、世代間の公平な負担に配慮する観点に立ち、持続性のある制度として構築すべきである。
A 健保連の主張する「突き抜け方式」は、給付費の5割程度の公費の投入を前提に、拠出金を廃止し、現役世代の負担を保険料として明確にして、一定期間の保険料の納付を将来の給付の保障につなげるというものである。
B また、「突き抜け方式」は、年金制度と関連して高齢者医療制度を構築することにより、介護保険制度との関係も含め、高齢者の保障を一体的に論じることが可能となる。
C 新制度の「イメージ」を整理すると、別紙のとおりとなる。しかしながら、独立方式に重きをおく意見もあり、今後、協議を重ねたうえで、改革案について結論を出すこととした。
保険者機能の強化
   保険者機能は、本来、かなり幅広い概念を持つものであるが、わが国の医療の現状等では、なによりも患者の利益を優先して機能を発揮していくことが重要である。保険者が医療情報の提供などを行い、患者が自ら選択し、自己決定できるようにして、真の患者中心の医療を実現する。そのため、医療機関の診療機能などに関する情報を収集して、被保険者に伝える効率的なシステムの構築を進める。このほか、
@ 保険者が地域の実情に応じ、可能な範囲で保険医療機関の選択や診療報酬等の契約ができるようにする。保険者によるレセプトの一次審査は、具体的条件やその試行を含めて検討する。
A 診療報酬支払い上、必要があるときは、健保組合等が患者や保険医療機関などに対する調査を行えるようにする。
B 保健事業については、外部化、市町村との連携により効率的に推進できるようにする。
C ITを活用して、医療に関する情報について、医療機関、保険者、患者が共有できるような統一した情報のコード化などを図り、ネットワーク化を進めていく。
D 保険運営の一層の効率的運営に取り組んでいく。
  など保険者機能の強化を積極的に推進する。

 高齢者医療制度
被保険者
  被用者年金の老齢年金受給権者(「高齢被保険者」と言う)および被用者年金加入者とする。
高齢者医療の給付対象者
  被用者年金の老齢年金受給権者およびその配偶者およびその直系卑属とする。
高齢者医療の給付水準(一部負担)
@ 健康に対する自覚とコスト意識を高め、適切な受診を促すため、
前期高齢被保険者(75歳未満)8割給付
後期高齢被保険者(75歳以上)9割給付
など、とする。
A 薬剤の過剰使用を抑制するため、「薬剤費」について別途その費用の一定割合を自己負担とする。(注参照)
B 一定額以上の一部負担については高齢療養費制度を設ける。
保険料
@
高齢被保険者の保険料
a. 各人の老齢年金額に被用者保険の平均保険料率の2分の1を乗じて得た額とする。
b. 適用・徴収事務は厚生年金保険制度に業務を委託する。
A
現役世代の保険料
a. 高齢者の医療のため、20歳以上の者から「老人医療保険料(仮称)」を徴収する。
b. 老人医療保険料の負担は労使折半とする。
c. 老人医療保険料を一定年数以上納付することを高齢者医療の受給要件の一つとする。
公費負担
  保険方式を基本とする考え方から、公費の負担割合を給付費の5割とする。
保険者
@ 全被用者保険を通じて一つの保険者(民間)とする。
A この場合、運営責任が明確化され、自律性と効率性が最大限に発揮されるよう健保組合組織の活用も含め工夫する。
その他
  国保制度についても、被用者保険グループと同様な考え方で、老齢基礎年金受給者を対象に高齢者医療保険制度を構築し、国庫負担を重点的に投入する。
  (注)薬剤の一部負担については、一般制度でも同様の制度を設けることとする。

★「突き抜け方式」が大勢ブロック説明会で強調★
健保連本部は「今後の制度改革に向けての考え方」の説明会を5月16日午後、大阪中央区のクボタ本社大ホールで開いた。
 「考え方」の主旨や今後の取り組みを会員組合に理解してもらうため説明会をブロック別に開いたもので、大阪ブロックを対象にした説明会には約650人が参加した。
 「考え方」をまとめたプロジェクトチームのメンバーのひとり、関東地区デパート健保組合の稲崎行雄専務理事が「突き抜け方式が大勢を占めているが、独立方式を唱える内部意見がないわけではない。A永幸彦委員(当時)から大阪独自の独立方式案も提案された。最終結論は出ておらず、この『考え方』は中間報告だ」と経過を説明。そのうえで「どのような方式をとっても、医療費の抑制をしない限り長続きはしない」と強調した。
 そのあと、質疑・応答を行い、参加者から出された質問書をもとに、日本通運健保組合の厨川眞夫理事長らが回答した。