広報誌「かけはし」
2001年2月25日 No.353
投稿 言わしてんか!聞いてんか!
   
●20世紀を振り返って
   新世紀を迎えても、健康保険組合を取り巻く情勢は、必ずしも見通しが明るいものとは思えません。
 健康保険組合は、昭和18年(1943年)の健康保険法の改正により、健康保険法の公法人として発足しました。当時は、太平洋戦争の真っ只中で苦難の連続だっただろうと想像するばかりです。  戦後のわが国は、社会保障制度を拡充整備し、医療保障の確立を目指していくことになりますが、昭和31年の神武景気、昭和34年の岩戸景気に沸くなかで、昭和36年には国民皆保険として全国民への医療サービスの提供となりました。
 時の池田内閣が国民所得倍増計画を打ち出したのも、我々サラリーマンにとって喜ばしい限りでした。
 健康保険組合も、この昭和36年頃から40年代にかけ激増し、昭和38年にはピークとなり、この年だけでも20数組合が設立認可されました。
 この当時、健康保険組合に加入していた被保険者が、一番良き時代を過ごしたのではないでしょうか。
 
 医療機関に受診しても、初診時の一部負担金の100円、200円が附加給付として還付されていました。
 また、どの健康保険組合でも、有名な観光地に立派な保養所を数カ所保有し、料金も安く、被保険者やその家族の心身安定の場所を提供していました。
 一方、昭和46年には、保険医総辞退騒動がありました。健保連の医療費適正化と、政管健保の赤字財政対策のための財政調整を支持する武見日本医師会長率いる医療団体とのバトルです。
   人口高齢化により医療費の増加するなか、昭和48年のオイルショックから日本の経済情勢は一変し、医療保険も重大な時代に突入していきます。
 昭和57年の老人保健法成立により、老人医療費の財源を各保険者の拠出金で支えることになりますが、その結果が今の健保の財政悪化です。
 この拠出金の負担方法の公平化を図るための医療保険制度の抜本改革案が廃案になったりしながら、昨年末にやっと健康保険法の一部改正法が成立しましたが、我々にとって満足のいく内容ではないまま、波瀾万丈の20世紀が終わりました。
 21世紀はどう健保組合が変貌するのか、また健康保険制度はどう変わっていくのでしょうか。一枚の健康保険カードで、世界の医療機関で受診できるかもしれません。
 この21世紀のはじめには、まず老人保健制度に替わる新たな高齢者医療制度を早急に創設させ、不合理のない法律と、より適正な健康保険制度の運用が望まれます。その実現と全国民の医療に関する不安解消のためにも、私たちは努力を惜しむものではありません。
(第1地区 M・O)
   
●負けたらアカン
   来年度の予算編成期を迎え、送られてきた計算式をもとにわが健保組合の老人保健拠出金を算出して、顔面蒼白、頭の中は真っ白になりました。
 わが健保組合では、保険料が減収、高額医療費が増加するなか、事務費のカット、レセプトの点検強化、健康診断結果のフォローを強化して医療費の削減、保健事業の縮小―など赤字増大に抵抗しています。それでも、老人保健拠出金のこれほどの増額にはとても対処できません。
次官発言に憤り
 そんな矢先、1月12日付けの日本経済新聞を開いて、一瞬、目を疑い、こんどは顔が真っ赤になりました。これではまるで、フランス3色旗です。
 
 なんと近藤純五郎・厚生労働次官は記者会見で「医療制度改革は2002年度に完結はしないだろうと語った」と報じられています。さらに、「(2002年度に実施できるのは現行制度の修正程度で、抜本改革は難しいという)日本医師会・坪井栄孝会長と私の認識は大きく変わらないのではないか」とも発言しているというではありませんか。
 官僚のトップである事務次官と健保組合とでは、国民医療費の増加と医療保険財政の悪化に対する理解と認識に相当な開きがあるように思えます。
   解散する健保組合が急速に増え続けている事態を無視したような発言であり、健保組合制度の行末に非常な危機を感じています。
 かくなるうえは、大阪連合会が先頭に立って国民にアピールする施策を打ち出し、なにがなんでも、政府・与党に平成14年度の抜本改革を実現させるよう迫るべきです。ここで、手をゆるめては、健保組合の存続そのものが困難になるでしょう。
「健康日本21」も重視
 当面の予算編成がもちろん最大の課題ですが、中長期的な医療費抑制につながる「健康日本21」も大切だと思っています。
 私は、最近の若い人たちが、缶飲料、ファーストフードに偏りがちな点をとくに心配しています。これから結婚し、出産を迎えるだろう若い女性たちの喫煙も気がかりです。
 内にあっては、被保険者とその家族の健康維持、そして大阪連合会の一員として、医療保険制度の抜本改革を実現するための活動。ことしも頑張らなきゃあと、自分を叱咤(しった)激励しています。
(第2地区 K・M生)
 
●健保組合とは?
   例年どおりの予算編成および組合会の時期であるが、この時期になると一種の空しさに襲われる。健保組合運営上、事業計画および予算編成は根幹に係わるものであり、組合の自主運営という形式上、組合会決議を経るわけであるが、一体組合会で決議しているのは何か、ということである。支出のうち保険給付費・拠出金などの法定給付費などが保険料収入の90%ほどを占め、いわば自主運営部分は残りの10%以下に過ぎない。附加給付・保健事業はもちろん各組合独自運営によるものであるが、最も大きな部分を占める保険給付費・拠出金は、その推計は各組合に任せられているとはいえ、実態は組合の意志によりコントロールできるものではないからである。
 医療費抑制が各組合の至上命題の感があるが、本来適切な医療を安心して受けられることを被保険者が実感するところに、組合の保険者機能があり、医療機関の過剰請求をチェックし、老人医療の削減策を最大課題として考えることではないはずである。
 そもそも若人であれ老人であれ、医療の中身を患者が選択しているわけではなく、受診者を診察し、投薬をするのは医師である。レセプトは医師の記入したカルテに基づいて作成、計算されたものであり、カルテが患者の適切な病状と治療を表わしているかどうかは、診療に当たった医師にしかわかりえない。
 
 組合は療養の給付という現物給付を行うことになっているが、現実には医療サービスの提供は医療機関が行い、その価格は一律の公定価格である。医療の担い手は基本的には「私」が中心であり市場原理が働いて当然であるが、現実的に利用者がサービスの質・価格を判断し選択するための情報・手段はほとんどないに等しい。
 診療報酬は医療機関の経営成立を前提に算定されていると考えられるが、費用構成から見れば、医療費の約50%が人件費であり、材料費は25%程度である。
  日本の病院数・病床数は世界のトップクラスといわれており、医療従事者数を考えれば、これら人件費が結果的に医療費価格を上昇させていることが推定される。
 また日本の税や社会保険料負担は欧米諸国に比べまだ高くはなく、医療費の対GDP比率でも相対的に低水準であるにもかかわらず、存続できない組合が続出し、更に今後の組合の展望もない。
 健康保険法によれば、保険者は政府および健康保険組合であるが、当初は組合の方が望ましいが、政府も補完的に包括的な保険者になるという考え方であったようである。しかし、日本の医療制度改革は、組合の保険者機能が次第に発揮されなくなる過程であったとの指摘もあるとおり、現実には拠出金を含め支払い者としての事務管理をスムーズに行うことにその役割を矮小化されている。
 本来の保険者機能、つまり医療提供者側にも相応の影響力を行使するには、法的側面も当然ながら、情報管理・分析手段、人員確保などインフラ整備が必須であり、これが可能な組合は現状極めて限られる。当面は財政が緊急課題であるが、将来的な組合のあり方を展望すれば、保険者の再編成問題を避けて通れないのではないだろうか。
(第3地区 T・M)