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●第5回「喫煙対策のすすめ」 |
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(財)大阪がん予防検診センター
調査部長 中村 正和 |
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最近、職場の喫煙に対する関心が高まり、その対策に取り組む企業が増加しています。職場は働く人が1日の大半の時間を、しかも長い年月にわたって過ごす場所です。職場がタバコで汚染されていると、長期間にわたる受動喫煙によって呼吸機能が低下したり、肺がんや心筋梗塞などの重大な健康被害が生じる危険が高まります。また、受動喫煙は、眼やのどの痛み、流涙、くしゃみや咳などを引き起こし、心理的苦痛の原因になります。
1992年5月に労働省から公示された「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(いわゆる「快適職場指針」)によると、屋内作業場においてタバコの煙や臭いに不快を感じている従業員がいる場合には、事業者の責務として作業場内において喫煙場所を指定するなどの喫煙対策を行うことが必要であると明示しています。
これまでわが国で実施されている喫煙対策は、@コンセンサス型、Aトップダウン型、B直訴型、の3つのタイプに大別できます。コンセンサス型は、タバコを吸う人と吸わない人との間に感情的な対立が生じないよう、両者のコンセンサスを得ながら手順を踏んで進める方法で、一般に大企業で用いられています。トップダウン型は、中小企業で多くみられるタイプです。これは、社長の号令の下でオフィスの分煙または禁煙に取り組むもので、禁煙手当や罰金制度がよく用いられています。最後に、直訴型というのは、たとえばタバコを吸わない女性の従業員が上司や労働組合に直訴し、それがきっかけで職場の分煙化が進められるというもので、最近では職場の分煙化を求めて訴訟を起こすというケースもみられています。
職場の喫煙対策の目標は、職場の分煙化と、タバコを吸う従業員に対する禁煙の支援を行うことです。職場の分煙化の方法としては、禁煙タイムを設ける「時間分煙」と、喫煙場所を決めて、それ以外の場所を禁煙とする「空間分煙」の2つの方法があります。時間分煙は、職場の改修や換気装置の増設などの費用をかけずに容易に取り組める方法です。しかし、空間分煙に比べて効果は小さく、禁煙タイムの前後で喫煙量が多くなるため、高濃度の有害物質にさらされるという問題が生じる可能性があります(図1)。
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図1.事務所内における粒子状物質濃度の時間的変動
(木村菊二、1991) |
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タバコを吸わない人を環境中のタバコ煙から保護するという職場分煙の趣旨からいいますと、喫煙室を設けて、空間分煙を実施するのがおすすめです。
職場で喫煙対策を実施した場合の意義として、まず第1に、職場の分煙化を徹底することにより、タバコを吸わない従業員を受動喫煙という有害物質の被害から守ることができます。第2に、喫煙によるロスタイムや欠勤の減少による生産性の向上、維持管理費の減少等による経済効果が期待できます。特に禁煙サポートは、数ある予防活動の中でも極めて経済効率にすぐれた保健活動であり、優先順位の高い活動といえます(図2)。 |
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内容 |
費用効果比(円/救命生存年) |
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禁煙指導 |
10〜70万 |
ニコチンガム追加 |
60〜130万 |
高血圧の治療 |
120〜820万 |
高脂血症の治療 |
300〜1,800万 |
運動 |
170万 |
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注1 |
1ドル=100円で換算 |
注2 |
費用効果比=1救命生存年あたりの費用(生きられたはずの1年間の損失を救うのに必要な費用) |
注3 |
保健医療の経済効率性を判断する目安として、1救命生存年あたりの費用が200万円以下だと経済効率が「非常に良い」、1,000万円を超えると経済効率が「悪い」とされている。 |
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(出典:アーバン、1992年) |
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図2.予防活動の費用効果比の比較 |
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第3に、職場で分煙化ならびにその強化によって、タバコを吸う従業員の禁煙に対する動機が高まったり、本数が減るという効果があります。分煙化と合わせて禁煙サポートを行えば、従業員のタバコ離れが進み、その結果、従業員の健康度の向上や医療費の軽減につながります。
職場の分煙化と禁煙サポートの2本柱から成る喫煙対策は、「会社の財産」ともいえる従業員の健康を守り、増進するだけでなく、経済効果も期待できるのです。これら2つの活動を車の両輪のように職場内で推進しましょう。
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