広報誌「かけはし」
2000年12月25日 No.351
   「糖尿病の一次・二次・三次予防―さまざまな医療現場からみた治療戦略―」と題した健康教室が11月10日、薬業年金会館で開かれ、兵庫医大第2内科の難波光義助教授がスライドなどを使って最新情報を紹介した。
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糖尿病の一次・二次・三次予防
―さまざまな医療現場からみた治療戦略―
     
●医療経済的にも効果大の一時予防  
    糖尿病というのは余病や合併症が多い。糖尿病がそれ以上進行しないように、また合併症が出ないように医療現場では取り組んでいるわけですが、予備軍が糖尿病にならないようにするためには、職域はもちろん教育現場、家庭など非常に裾野の広い対応が迫られます。中国には未だ病に至らずという意味の「未病を正す」という言葉がありますが、まさしく治療医学から養生医学へとなってきています。
難波光義助教授
   戦後、疾病の構造が変化し、心筋梗塞や乳がん、大腸がんなど糖尿病や生活習慣に裏付けられるがんも増加しています。ですからライフスタイルを上手く一次予防していけば、このような病気も減らせる可能性があり、医療経済的にもかなりのメリットがあると思われます。
 2年前の厚生省の発表によると糖尿病患者が約700万人、予備軍が約680万人にのぼります。よく「予備軍なら恐くない」と誤解されますが、これは間違いで、この段階で心筋梗塞や脳梗塞など大血管障害の合併症がすでに始まっている、または危険性があるのです。
 糖尿病には家族歴(遺伝)が大きく影響していますが、それだけで糖尿病を発病するわけではありません。膵臓から血糖をコントロールするインスリンの出が悪い、あるいは出ていても力が弱いという状態に生活習慣など環境、すなわちインスリン抵抗性が掛け合わされて進行するのです。ということは、遺伝というハンディがあっても生活習慣などの負担を軽くすれば境界型でストップできるのです。このように境界型から糖尿病にいかないようにブロックするのが一次予防。そして糖尿病という診断を満たすくらい血糖値が高くなってきたが、重い高血糖に至らないようにしようというのが二次予防。三次予防とは余病によっての弊害を防ぐ。すなわち生命はもちろんQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の障害にいたらないところで食い止めようというものです。
   
●9割は内臓脂肪が主因の2型糖尿病
   糖尿病にいたる環境因子としては、特に動物性脂肪を多く摂取する食事、甘いものや果物などの糖質の摂取、運動不足、アルコール、そしてストレスなどがあり、これが内臓型脂肪の原因になります。そして内臓型脂肪からの糖尿病が約90%を占める2型糖尿病です。
 生活習慣病の合併危険率が標準体重者(BMI=22)のリスクの2倍以上になる肥満度は10%増のBMI=25で、血圧や中性脂肪が高くなったり、善玉コレステロールが少なくなります。そして20%増の27になるとはるかに糖尿病のリスクが高くなり、28以上になると悪玉コレステロールが増え出します。私どもでは、5%増の23までで押さえるよう指導を行っています。
 最近は遺伝子研究が進み、肥満やインスリン抵抗性が起こりにくい(日本人の4%)「PPARγ」やインスリン抵抗性・肥満・糖尿病になりやすい(日本人の95%)「カルパイン(CAPN)」など体質も分かってきています。ですから、今後は生活指導も画一的生活介入(薬物治療)からその人の体質を分析した上でのオーダー(テーラー)メイドの対応が必要となってくると思われます。
 二次予防に関してですが、新しい経口血糖降下剤が続々と登場しています。大別すると膵臓の働きを強めるインスリン分泌促進剤、ライフスタイルを軽減するインスリン抵抗性改善剤、糖質吸収の緩和と遅延を行うα―グルコシダーゼ阻害剤があります。現在経口剤全体の40%を占めているのがベイスン、グルコバイ(α―グルコシダーゼ阻害剤)です。これは副作用が少なく体重増加を招きにくいほか、ある程度抵抗性も軽減し、分泌障害の負担も軽いことからよく用いられているようです。
 またインスリン製剤においても超速効型、水溶性遅効型インスリン、気道から取り込む吸入インスリン。血糖測定に関しても最近では18秒で測定できるものや24時間のモニタリングも可能なタイプなどの開発もすすんでいます。
 最後に三次予防の立場から糖尿病患者の死因として増加している虚血性心疾患の歯止めのために血糖だけでなく、高血圧、高脂血症を同時に管理しコントロールしようという取り組みを行っています。