広報誌「かけはし」
2000年11月25日 No.350
おしゃべり散歩道
第1部 禁煙サポートの科学 -依存症と習慣へのアプローチ-
10月19日、薬業年金会館で「健康セミナー」を開催。スポーツライターの増田明美さんが「おしゃべり散歩道」と題して講演を行い、シドニーオリンピックでの裏話をはじめ興味深い話題をユーモラスに披露しました。
ユーモラスなトークを
繰り広げる増田さん
●健全な肉体に健全な精神
   このところ私は大阪に大変縁があり、最近では御堂筋パレードのゲストとして、また今年から大阪芸大で「スポーツ研究」という授業を担当、講師として隔週に大阪へ来ています。
 私は千葉県の出身なんですが、千葉県人と大阪人とは「元気、早口、陽気」という共通点を感じます。が、ただひとつ違うのは大阪の場合は小さな子ども同士での会話でもボケとツッコミが成立しているのに対して、千葉県人の会話は互いに自分の言いたいことを言い合い、いわゆる話のキャッチボールが成立していないということです。ちなみに読売巨人軍の長嶋監督、マラソンの高橋尚子さんの監督の小出義雄さんも千葉県人だそうです(笑)。
 シドニーオリンピックは、まだ記憶に新しいところで、みなさんもそれぞれ印象深いシーンや感動のシーンなどがあったと思いますが、私が今回のシドニーオリンピックでいちばん感じたのは「健全な肉体には健全な精神が宿る」ということです。
「最低でも金メダル、最高でも金メダル」と言ったヤワラちゃんこと田村亮子さんはその言葉通り念願の金メダルを獲得しました。その後のインタビューにおいて、彼女は「自分がこの手で金メダルを取った」などといういばった態度ではなく、常に自分を支えてくれ、応援してくれた周囲の人たちへの感謝の言葉を口にしています。そうした姿を見ていて、人間的に本当にすばらしいと感心させられました。
 実は彼女、あの決勝戦にはアルバムを持って行ったそうです。そして「今まで自分を支えてくれた人たちがいて今の自分がある。決勝戦ではそうしたみんなと一緒に戦うんだ」と思ったそうです。ですから、終わった後あのような感謝の言葉が自然に出たんでしょうね。そうした姿はヤワラちゃんだけでなく、あの女子マラソンの高橋尚子さんなどもそうです。そんな選手の姿を見て私のなかにある傲慢さが恥ずかしくなりました。
 シドニーオリンピックに私は解説者として参加させていただくことができたわけですが、その宿泊先というのがログハウス。といっても、みなさんが想像されるようなおしゃれな感じではまったくないんです。急きょ作られたものなので、内装はもちろん、隣の物音は聞こえるなどひどいものだったんです。特にシャワー室は狭いうえに外国人サイズで位置が高いので、小柄な私は自分にお湯がかかる前に床がびちょびちょに。肩幅のある男性の元オリンピック選手などは狭さのため身動きがとれず半身ずつ浴びるといった状態。そんなところに4〜6人が合宿生活なので、顔をあわせれば不満を言っているという感じだったんです。それが、先ほどいった選手たちの姿に触れるうち誰も不満を言わなくなったんです。私自身も「オリンピックでたいした記録も残していないのに、こうして解説者として参加させていただいている」と、途中からは感謝する気持ちでいっぱいになりました。
 ●高橋尚子の強さには「食」も関係
   高橋尚子さんのレースをご覧になった方が多くいらっしゃると思いますが、強かったですね。ゴール前のトラックでの競り合いもなく、淡々と走ってそのままゴール。あのレースを見ていて、私は「本当に強い人が自分の強さをアピールするのはこんなものなのか」と思いました。
 彼女の強さは一体どこから来るのかというと、まずその体力は人並みはずれています。もちろん持って生まれたものもありますが、その理由のひとつに食が挙げられると考えます。彼女は好き嫌いなく何でも食べますが、魚の皮やフライドチキンの骨の周りなどを好んで食べたり、また朝から生肉も食べるんです。私の場合、貧血気味だったのでレバーを食べるようによく言われ、滝田監督のお宅に下宿していた頃、奥様が牛乳でにおいを消したりいろいろなことをしてくれたんですが、どうしてもダメだったんです。1983年の大阪国際女子マラソンでは貧血で倒れ途中棄権ということもありましたが、生肉でも何でも食べられたら私ももう少しは強かったのではないかと思います(笑)。都合が悪くなると増田明美は倒れるなんて世間では言われましたが(笑)。
 オリンピックに向けて有森裕子さんと同様、高橋さんもコロラドで高地トレーニングを行いましたが、その時同行した栄養管理士の金子ひろみさんが有森さんの時にも同行した方で、その方にお話を伺ったところ、有森さんは味付けも薄味に、またカロリーも気にするなど「頭で食べる」タイプ。それに対し高橋さんは、夕食が楽しみで走っているんだからと、カロリーも何も気にせず、ただ食べたいものを食べていたようです。
   
 ●体力は「行動力・気力・抵抗力」
 
 本日は「健康セミナー」ということでお話をさせていただいていますが、スポーツをするだけが健康ではありません。健康には笑いも大切なんです。有森裕子、高橋尚子と名選手を育てた小出監督は「へっぽこおやじ」のあだ名があるほど、選手を率先して笑わせたりする楽しい人です。たまに「もっとしっかりして。同じ千葉県人として恥ずかしい」と思うこともありますが・・・(笑)。
駅伝の取材に行った時、その監督に「どこが強そうですか」と聞いたことがありました。すると監督は「控え室から笑い声がよく聞こえてくるところが強い」とおっしゃったんです。結果はその通り。やはりチームのコンディションが良く、乗っている時には自然に明るい雰囲気が漂い、笑いが出てくるんですね。
 選手時代から私はすごく緊張するタイプだったんですが、数年前、NHKで民謡番組の司会のお仕事をさせていただいた時も気負い過ぎて1週間前くらいから眠れなかったんです。で、本番はどうだったかというと、緊張して変な間ができたりしてうまくできずにすごく落ち込んだんですが、後から、なぜせっかく今まで知らなかった民謡が聴ける場なのに楽しまなかったんだろうと反省。それからはすべてをおもしろがろう、楽しもうと気持ちを切り替えることにしたんです。ある先生によると、体力とは「行動力と気力と抵抗力」だそうです。特に抵抗力はストレスにも対抗できる重要な力です。
   
 ●手軽にできる 部位別運動など
   最初に言いましたが、今春より大阪芸大の専任講師を務めています。授業では長い間ゆっくりと時間をかけて行う運動に有酸素運動を取り入れたものをさせたいと考え、実施しようと思いました。が、最初の授業で驚いたのは、姿勢の悪さです。またスキップをできない子がいることにもびっくりしました。ですからまず歩くスタイルを正しくすることから始めました。そしてスキップ。柔道で田村亮子さんが金メダルを決めた瞬間、ピョンピョン飛び跳ねましたよね。あれを見ていて人間ってうれしい時には思わず跳ねるんだなと感じました。スキップの基本は飛び跳ねることですから、できない人はそんな出来事を思い出してやってみてください。
 これからの季節は代謝が悪くなります。また年齢とともに体力や体型も変わってきます。私は今でも毎日1時間程度走っていますが、それと別に他の運動メニューをこなすのは面倒なので、走っている途中に他の運動を取り入れています。
 最近二の腕が気になるので、筋肉を引き締めるため走りながら両手を前後に真上に上げ下げする。これを20回セットで行っていますが、これがかなりきつく、女性の方は翌日筋肉痛になります。
 胸を鍛えるためには、手をまっすぐ前に伸ばし両手を交差させ、その後両側に開くという運動が効果的です。次に体側を引き締める運動として、飛び跳ねながら手を上下させ、カニのように横に移動して走ります。また腰を鍛えるには手を振り腰をひねるのが良いでしょう。
 走る時には手を前後に真っすぐ大きく振ってください。私は小さい時から負けん気が強くて、運動会のかけっこでは後ろの子に抜かされないように手を横に振りながら走っていました。マラソンをはじめた当時、その癖がしばらくは残っていたんですが、手の振りを正しく直しただけで記録が驚くほど伸びたということがありました。それほど腕の振りひとつでからだ運びが変わってくるのです。
 「おしゃべり散歩道」という本日のテーマは、本来おしゃべりなわたしにぴったりだ(笑)ということで、いろいろなお話をさせていただきました。このおしゃべりのおかげかバラエティーなどにも呼んでいただいていますが、市民ランナーなどへのマラソンの指導をはじめ、私自身が触れたスポーツのすばらしさ、また楽しい裏話などを機会があるごとにみなさんに伝えていきたいと思います。
   
プロフィル
1964年元旦、千葉県に生まれる。中学時代に県陸上競技会に出場し、成田高校の滝田監督に見い出される。成田高校3年生の時、ほとんどの長距離で次々と日本記録を樹立。83年オレゴンTCナイキマラソンで自己ベスト2時間30分30秒で優勝。84年ロス五輪出場。92年引退。テレビ・ラジオ、執筆等幅広く活躍。