|
|
「広報研究会」を11月1日、大阪北区のホテル・モントレ大阪で開催した。産経新聞論説委員の岩渕勝好氏が「医療保険改革と介護保険の展望」と題して講演、続発する医療事故や健保法案成立の見通し、介護保険制度の問題点などをホットな中央情勢をまじえて多角的な視点から解説した。 |
 |
講演する岩渕勝好氏 |
|
|
●健保法の見通しなどについて
|
|
最近、医療事故が続発しマスコミで大きく取り上げられています。当然そうした事故は民間病院にもありますが、情報公開の問題により報道されるのは国公立に集中しています。その場合、国公立特有の学閥人事が不祥事の要因のひとつではないでしょうか。そうしたなか、厚生省が「特定機能病院連絡会」をつくったわけですが、それは医療事故に絡んで、文部省の管轄である大学病院にも厚生省が手を入れたいという意図があるのではと考えられます。
医療事故に関し、以前は医療ミスに対する問題だったのが、誤診も槍玉に上がってきました。その意味ではアメリカ並みになってきており、今後、日本も訴訟の時代に入るといえます。またその数はカルテの開示により、飛躍的に増加して医療費にはねかえるのではないかと考えられます。
老人医療費は異常に増大してきました。介護保険導入のメリットは医療から介護を切り取ったことにあります。これにより老人医療費を平成11年度の11兆1,000億円から12年度には10兆1,000億円に11.8%減を見通していたわけですが、4月がマイナス7.7%、5月がマイナス1.5%、6月がマイナス5.5%と、平均マイナス4.9%にとどまりました。その原因は、当初19万床の見通しだった療養型病床群が11万5,000床(4月段階)しか介護保険に移行しなかったことが挙げられます。
健保法の見通しについてですが、本日の衆議院厚生委員会で可決、明日の本会議で可決、そして参議院に送り、なんとか今会期内にはあげようという予定です。この法案について反対を唱えている政党もありますが、通らない場合、来年12月には平成14年度(2002年度)の予算を組むわけですから、与党が公約している2002年の医療保険の抜本改革に大きく影響してくるわけです。
抜本改革について、厚生省では2002年に実現できるのかやや危惧している部分があります。というのは、前述の通り、政治日程がタイトであり、また公費負担を増やすにあたって、大蔵省がすんなり承諾をするはずがない。その財源をどうするかが最大の問題点なんです。
財源として最も考えやすいのがタバコで、日本医師会も老人医療の財源にしろと常々言っていますし、周囲を見回しても新たな財源として考えられるのはタバコしかないのではないかと思われます。ただ大蔵省や業界の反対により、これまでのように立ち消えになる可能性もあります。
抜本改革についてはさまざまな提言が出されており、日本医師会の「2015年医療のグランドデザイン」もそのひとつです。この2015年というのは、団塊の世代が高齢者となります。日本の社会保障の最大のターゲットは団塊の世代で、その巨大な人口圧力をどうやって支えるかは、厚生省にとって頭の痛い問題となっています。
グランドデザインのポイントを簡単にいうと、@85歳の生存率を50%に引き上げる。A非自立者の数をこれ以上増やさない(65歳以上の自立者の割合を93・4%に)。B65歳の労働者を現在の25%から35%に引き上げる。この目標値設定には私も賛成であり、また厚生省の「健康日本21」もほぼ同じようなラインで行っており、官民それぞれがこのような努力をしていくことは大変結構なことだと思います。
健保連では昨年10月に「平成14年度医療保険制度改革の実現のために―今後の医療のあり方と改革の方向」を発表。医師会との話し合いで歩み寄った部分があります。大きなものとしては、自立投資という概念。これは臓器移植や遺伝子治療、生殖医療など先端的かつ選択的なものについては、個人が貯えて賄うということです。それについて「考え方も具体的に検討されるべきで健保連としては一定のルールを定め、自らの健康のために支出するという考え方を取り入れていく可能性はあると考える」ということで、今後、自立投資は大きなテーマになっていくと考えられます。
|
●介護保険の現状と課題 |
|
介護保険についてですが、65歳から74歳までの前期高齢者と75歳以上の後期高齢者の数がひっくり返るのが2022年で、そこから先は後期高齢者が多くなります。当然のことですが、高齢になればなるほど要介護度が高まります。ですからそれに対しどのようにケアしていくかが最大の課題です。現在、高齢者は2,180万人で、うち75歳以上は888万人。それが2025年には1,000万人増の1,888万人になるんです。それによって要介護の人口は現在の280万人から530万人になると予想されています。ただしこの数字は介護予防などにより高齢者が元気になることを当て込んだもので、甘い数字となっています。
私たちが生涯介護保険を利用する確率は5割弱です。公的な保険制度としてこの程度のリスクファクターで成り立つのかという議論が最初からありましたが、自分では世話にならなくても、両親など家族のだれかが世話になる。また地域保険である介護保険を職域で負担することについても痛みを分かち合うという日本的感情によりクリアしたんです。
現在、介護保険の利用率は43%で、使える範囲の半分も使っていないのが現状です。というのは、利用者の多くは低所得者で、これまで8割くらいの人が無料で利用していたんです。そうした人たちにとって、1割負担は非常に重いというのが理由のひとつであると考えます。
|
|
|
|
●救貧福祉の呪縛を 解く介護保険制度 |
|
低所得者の負担は確かに重いのは理解できますが、世界1の高齢社会を乗り切るためには、これまでの少数の弱者を救済する福祉から多数の国民が利用する社会保障への突破口として、それなりの負担は仕方がないと考えます。サラリーマンにとっては介護保険は非常にありがたい制度だといえます。
|
|
というのはこれまでサラリーマンOBは介護サービスをほとんど使っていませんでした。例えば特別養護老人ホームに入る際、標準的年金をもらっていて息子の年収が800万円だとすると1ヵ月20万円近くの負担だったのが、5万円で入所できる。サラリーマンOBでも利用できる制度になった。すなわち救貧福祉の呪縛を解く制度だと思います。
昭和36年の国民皆保険以後平均寿命は10歳以上延びており、健康寿命を延ばすための予防策は、今後ますます重要になってきています。予防医療の意味で感心しているのが、長野県のPPK(ピンピンコロリ)運動です。これは県民運動のスローガンで、2年交代で地域の主婦が保健補導員として保健婦のサポート的活動を行っています。このことが自分が高齢者になった場合にも非常に有効なんです。また、全体的に過剰診療、過剰請求も少ないんです。
介護保険の意義として女性の介護からの解放があります。要介護者をかかえている20歳代から50歳代の男性の介護時間は8分弱。それに対し共働きの主婦で32分、専業主婦で60分(総務庁・社会生活基本調査)となっています。将来のことを考えると男性も介護だけでなく家事に対しても、もう少し参加すべきではないかと思います。
少子化は物凄いスピードで進み、日本の人口は2004〜5年をピークに減りはじめます。さらに生産年齢人口(15歳以上)は1995年をピークに減少、20歳から64歳を生産年齢人口とした場合でも98年をピークに減少しています。つまり働き手の人間がすでに減ってきているということであり、女性や高齢者も働かざるを得ない時代になるのです。そのためにも健康でなくてはいけないという命題に取り組んでくださるようお願いします。
|
|
|
|
開会のあいさつ |
社会保障の将来かかる |
広報委員長 島田進氏
近畿電子産業健康保険組合専務理事 |
|
 |
私たちの健保組合は、かつてない大きな危機に直面しておりますことは皆様方すでにご高承の通りでございます。
健保連では、先般「今後の医療のあり方と改革の方向」と題して、現時点における考え方をとりまとめて発表いたしました。また日本医師会では「グランドデザイン」を。
一方森首相の私的諮問機関である「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」が「21世紀に向けての社会保障」という報告書を公表されるなど、今まさに日本の社会保障の将来を大きく左右する議論がされています。
|
|
例えば、保険方式か税方式かという課題や高齢者医療保険と介護保険をどのように組み合わせて整合性を持たせるなどの問題点があります。
このような状況のなか、本日の講演はまさに当を得たものと期待しております。 |
|
|
|
|