広報誌「かけはし」
2000年11月25日 No.350
   10月5日、薬業年金会館で「心の健康講座」を開催。 大阪府立こころの健康総合センター診療課長の漆葉成彦氏が「最近のうつ病」をテーマに、診断から治療までを紹介した。 。
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最近のうつ病
     
●自殺につながることもあるうつ病  
  うつ病は昔は精神病の一種として考えられていて、内因性、心因性、反応性と分けられていましたが、実際には区別し難いのですべてをひっくるめてうつ病といっています。また最近では、そううつを気分障害といいます。
 うつ病は特別なものではなく、ごく普通にみられる病気で、大うつ病の時点有病率は、女性で5〜9%、男性で2〜3%。生涯発病危険率は、女性で10〜25%、男性で5〜12%(DMS―IV 精神疾患の診断・統計マニュアル)で、うつ病と診断される人の数は1984年に10万人弱、94年は20万人強、そして98年には43万3,000人と増加しています。
講演する漆葉成彦氏
   では、うつ病とはどんなものなのかですが、何かのきっかけによって気持ちが落ち込むことは誰にでもよくありますが、うつ病とは決して一時的な落ち込みではなく、積極的に治療をしても数カ月かかり、また何度も繰り返す人もいます。  さらに自殺の背景にもうつ病があります。日本の年間自殺者は、98年には3万2,863人、99年には3万3,048人で、交通事故死の3倍以上にものぼります。その自殺者の生前の精神的な診断を調査した報告によると、自殺者の70〜80%がなんらかの精神疾患に罹患しており、60〜70%がうつ病の診断にあてはまるといわれています。またアメリカの統計では、うつ病患者の3分の2が自殺念慮を持っていて、重症のうつ病のために入院した患者の15%が自殺を試みているといわれています。
 高齢者の場合はうつ病を持つ人の死亡率は明らかに高いことも分かっています。ですからうつ病は正しい知識を持って十分な治療を受けることが必要です。
 うつ病のほとんどは治療によって1年以内に治りますが、実際の受療率は低いのが現状です。日本の場合、内科受診者の5%がうつ病であるといわれています。ヨーロッパの研究によると、うつ病と診断された人のうち、43%の人は医療機関に受診しておらず、また、うつ病のために受診した人の31%しか投薬されていない。そして抗うつ薬を投与された人は25%に過ぎないと報告されています。このような状況のなか、うつ病の治療は年々進歩し、新しい薬の開発はもちろん、家族教室やセルフヘルプグループなど心理療法も発展しています。
   
●うつ病の症状と その治療法など
   うつ病の症状としては、抑うつ気分、興味や喜びの消失、食欲の減退または増加、不眠または季節型に多い睡眠過多、焦燥またはひどくなると昏睡状態にまで陥る制止、気力の減退、罪責感。この場合、ひどくなると妄想を抱くようになります。例えばうつ病の三大妄想といわれる罪業妄想、心気妄想、貧困妄想が代表的なものとしてあげられます。その他、思考力や集中力の減退、自殺念慮や自殺企図があり、思考力や集中力の減退が進行すると仮性痴呆。すなわちボケの状態で、高齢者の場合は本当の痴呆かどうか見分けのつかない状態になります。うつ病の評価スケールとしてハミルトンスケール(客観的評価)やべック質問紙(主観的評価)などがあります。
 うつ病の成因としては生物学要因と男性は仕事や経済的問題、女性は対人、家庭、妊娠・出産など、生活上の出来事と環境からくるストレスの心理社会的要因があり、病前性格としては一度起こった感情が長く持続する。仕事熱心、几帳面、強い正義感や義務責任感のある「執着性格」。秩序にとらわれる。対人関係で他人との衝突や摩擦を避け、他人に尽くそうとする「メランコリー親和型性格」があげられます。
 うつ病の治療には薬物療法のほか、心理治療を行います。心理治療には病気であることを確認すること、休息をとらせること、治療の見通しを話すこと、病状は一進一退することを説明しておくこと、自殺しないように約束させること、そして退職をはじめ重要な問題の決定は、病気が治るまで延期させることなど「一般的心理治療」と、黒か白かという二分割的思考や拡大視・縮小視など考え方の偏りを修正していく「認知療法」があります。
 うつ病を予防するためには、仕事人間にならない、ゆとりをもって生活を楽しむ、自分一人で抱え込まず人に頼ったり任せたりする。また運動をすることも大切です。