意見書 |
「平成14年度医療保険制度改革実現のために
-今後の医療のあり方と改革の方向」 |
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はじめに |
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健康保険法等改正法案が、今臨時国会に再提出され、3日の衆院本会議で医療保険制度改革に向けた、今後の政府の方針が示されたところである。健保連としてはまず、同改正法案が早期成立することを期待している。併せて、既に社会保障制度審議会の意見書や経済団体、日本医師会のグランドデザイン等が公表され、首相の私的懇談会である「社会保障構造の在り方に関する有識者会議」も近く報告書をまとめることとされている。こうした状況の展開を機に、国民の医療改革への関心も高まり、改革に向かっての動きが促進されることを期待し、健保連の医療保険制度抜本改革への現時点の考え方や当面の対策を、以下のとおり取りまとめた。 |
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T今後の改革の方向 |
一、患者中心の医療の確立 |
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今後の医療では、遺伝子治療など医療技術の急速な進歩が期待される一方、高齢者の急増が現実のものとなると予想される。これらに対応できる体制を確立する中で、患者中心の医療が実現されなければならない。
そのためには、医療担当者、保険者など医療にかかわっている全ての者が、患者のために医療を行うという医療の原点に立ち、その実現が図られなければならない。また、患者自身も、自らの健康は自ら守るという立場に立って、適切な医療を受けることが必要である。 |
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二、被保険者等の付託に応える保険者機能の強化 |
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健康保険組合は、事業主および被保険者の付託を受けて、安定的な事業運営のもとで、患者に対して最も適切な医療を確保するために存在するものであり、そのために保険者機能が十分に発揮できるような体制とすべきである。その基礎は、情報であり、そのための規制緩和等を行い、必要な情報を得て、保険者が患者や医療機関に対して的確な情報の提供ができるようにすべきである。この視点に立って、健保組合が保健事業を含めたヘルスケアを提供できる自主性をもった保険者となることを実現する。 |
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三、生涯を通じた包括的なサービスシステムの構築 |
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医療と介護、さらには健康増進・保健予防事業の有機的な連帯のもと、若年世代から生涯を通じた包括的なサービス提供システムを構築することを目指す。
高齢になると、個人での生活となることが多くなることを考慮して、老後の生活を安心して暮らせるよう、医療、介護、年金が一体として機能する総合的体系を構築する。 |
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四、情報技術(IT)を駆使した制度の効率化 |
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患者(国民)本位の医療の確保や医療保険等の改革を促進していくため、大幅な情報開示を前提として、患者、保険者、医療機関の間で、十分な情報交換ができる体制が必要である。このため、必要な規制緩和を行い、急速に開発が進む情報技術(IT)革新の成果を駆使し、(例えば、一枚のカードにより、)一体的、効率的なサービスが提供されるシステムを作り、国民に分かりやすく利用でき、信頼される制度とする。 |
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U増高する医療費問題への対応 |
一、医療費の適正化 |
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最大の問題は、8%を超えて増大する老人医療費である。経済成長率が2%前後と見込まれる中で、高齢者数の増加率は4%を上回り、老人医療費の適正化だけでは解決できない問題が残る。老人医療費の適正化は、その増加をいかにして高齢者人口の増加率4%に近づけるかにかかっている。 |
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二、適正化の推進策 |
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医療費の合理化・適正化の必要性については、各関係団体の意見がおおむね一致している。健保連は、このために診療報酬体系の改革がまず必要であり、急性期医療は適正な疾病分類に基づく定額払い方式、慢性期医療は症状などにより適切なグループ化に基づく定額払い方式とすることを考えている。
また、最近の状況では、外来医療費の伸びが目立っており、かかりつけ医制度の確立を進め、これを前提として合理化を進めることが必要と考える。
薬剤問題については、効能効果などに基づく薬価の適切な設定と薬剤使用の適正化が重要である。
これと関連し、「自立投資」という考え方も具体的に検討されるべきである。健保連としては、保険制度との関連で一定のルールを定め、自らの健康のために支出するという考え方を取り入れていく可能性はあると考える。 |
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三、終末期医療のあり方 |
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終末期医療については、主治医のみに責任を委ねるのではなく、脳死判定の方法をモデルとするなど、人間の尊厳が守られる医療を提供する仕組みを設ける。
四、医療提供体制の改革と情報の公開
高い経済成長率、高い医療費増加率を前提とした医療機関経営および医療提供体制は改められなければならない。そのためには、新しい規制のあり方、医療機関の経営形態および資金調達を含めた経営の合理化を図るべきである。また、患者による適切な医療機関の選択により、合理化が促進されると考えるので、これに必要な情報の公開とその活用が不可欠である。 |
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V高齢者医療制度の創設 |
一、拠出金制度の廃止 |
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現行の老人保健制度の最大の問題点は、増大する老人医療費を一定の計算式により、自動的に各保険者に割り振り、保険料から拠出させてきたことである。実質は税とかわらない不合理な拠出金を、限度を超えて保険料から拠出させることに問題がある。
このような現行の拠出金制度は廃止し、新たな高齢者医療制度を創設すべきである。 |
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二、社会保険方式が基礎 |
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新しい高齢者医療制度は、実質的に保険料としての性格を有するものに限って、一定年齢以上の者が一定期間以上負担し、年金受給年齢になってから給付を受ける「突き抜け型」の社会保険方式という考え方が生かされるべきであり、それにより、保険者の自立性と機能が十分発揮されるべきだと考えている。 |
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三、公費負担の拡充が必要 |
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現在の高齢化の状況からすれば、経済成長率を上回って高齢者数の増加に伴う老人医療費の増加があり、この最小限の伸びだけを考えても保険料の負担のみでは限界があるので、公費の投入は不可欠である。
公費負担については、現行制度の3割を見直し、2分の1という方向が示されている。しかし、現在の医療保険の財政状況は、極めて窮迫しており、平成14年度の改革も予定されている。平成14年度改革での公費投入も考慮して、段階的措置なども含め、速やかに具体化を図っていくべきである。
公費による財政調整という考え方や、一定の年齢以上の高齢者に対して、重点的に公費を投入する考え方も併せて検討していくべき課題であると考える。 |
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四、当面の患者負担は1割 |
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今後、高齢者比率が高まる中、高齢者の収入の中心となる年金も成熟化している。これからは経済的弱者には配慮しつつも、高齢者にも現役と同じ負担という考え方とすべきであり、少なくとも当面1割の患者負担の原則が実現されるべきである。 |
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五、財源調達等を目的とした財政調整は反対 |
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現在、議論されている財政調整については、その目的が不明確であるが、制度の統合を前提とした、または、財源調達を目的とする財政調整には絶対反対である。自立した保険者を前提として考えた場合、理論的には財政調整は必要ないと考えるが、仮に財政調整を行うとすれば、その目的と調整の基準を明確にして、最小限度に止めるべきである。 |
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六、介護保険制度との統合も検討 |
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新しい高齢者医療制度は、一定年齢以上からの保険料の徴収やサービスおよび報酬などを考えると、介護保険制度と共通する面が多くなることが予測される。介護保険制度については、今後、実施状況を見て、問題点等に早急に必要な措置がとられるべきだが、将来のあり方については、新たな高齢者医療制度との統合の可能性も考えてみるべきである。その際には、保険者をどうするかは、現状にこだわらず、自立性など多角的な検討が必要である。 |
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W当面の対策 |
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医療保険制度の抜本改革は、平成14年度に予定されており、その改革が速やかに実行されるためには、組合などの財政をこれ以上悪化させないことを基本とすべきである。そのためには、まず、第一に健保法等改正案の早期成立が必要であり、第二に平成13年度予算への対策を構じることが必要である。
もともとこの数年は、平成12年度の介護保険の実施に合わせて、改革が実現されるという前提で、健保組合など保険者の運営が行われてきたので、健保組合などの平成12年度予算は限界に近い状態で編成されたのが実態である。しかも、現状は予算どおりの事業の執行もできないような状況に追い込まれている。
このままでは、多くの健保組合が、平成13年度の予算編成を行うことが極めて困難である。平成13年度政府予算では、拠出金等の負担が限界を超える組合に対しては、減免等を含めた十分な予算措置がとられるべきである。
また、介護保険制度については、その実施状況を踏まえて保険料その他の適切な見直しが行われるべきである。 |
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おわりに |
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この考え方は、平成11年2月に公表した「21世紀の国民の健康と医療の確保を目指してー医療保険制度構造改革への提言ー」以後の経緯を踏まえて、現時点における健保連の考え方を取りまとめたものであり、最終的な結論に至っていないところもある。健保連としては、さらに組織的に検討を進めていきたいと考えている。また、関係者のみならず、広く国民的な立場からの積極的な議論をいただき、率直なご意見をたまわれば幸いである。
保険財政の現状は、全く余裕のない窮地に追いつめられており、平成14年度の改革は、医療保険制度の存続のために不可欠であり、必ず実現されなければならない。
最後に、重ねて現在の臨時国会に提出されている健康保険法等改正法案の速やかな成立を切望し、この法案審議を通じて、平成14年度を目途とする医療保険制度抜本改革に向けた具体的な議論が進展するよう期待していることを付言する。 |
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