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第1部
禁煙サポートの科学 -依存症と習慣へのアプローチ- |
「健康セミナー」を9月28日、健保連大阪中央病院で開催した。第1部では(財)大阪がん予防検診センター調査部長の中村正和氏、2部では同調査部の増居志津子氏が講演した。 |
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中村 正和氏 |
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●禁煙サポートの
必要性等について |
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禁煙サポートはその必要性、有効性、さらに費用効果性において十分な科学的根拠を有しており、その普及により疾病予防効果や医療費節約効果が大きく期待されます。
経済損失についていえば、日本全国で3兆円の増収に対し、6兆円の医療費を持ち出している状況であり、健康被害においては、現在肺がんは胃がんと並んで死亡原因のトップとなっています。喫煙が1日10本程度になるとその被害は30年後に顕在化。肺がんは今後さらに増加すると考えられます。それを食い止めるため最も効果があるのが禁煙なんです。
禁煙による具体的な健康改善効果(アメリカ公衆衛生長官報告書・1990)としては、1禁煙は、性別、年齢、喫煙関連疾患の有無を問わず、すべての人々に大きくかつ迅速な健康改善をもたらす。2禁煙者は喫煙継続者よりも長生きをする。例えば、50歳以前に禁煙した者は、その後15年間、喫煙継続者に比べて、死亡率が半減する。3禁煙により、肺がん、その他のがん、心臓発作、脳卒中、慢性肺疾患のリスクは減少する。4妊娠前、あるいは、妊娠3〜4カ月目までに妊婦が禁煙した場合、低体重児が生まれる危険は、非喫煙妊婦と同程度まで下がる。5禁煙による健康改善の大きさは、禁煙後の体重増加(平均2.3s)や精神面への悪影響よりも明らかに大きい。以上のように要約されています。また、禁煙による疾患別のリスクの改善効果については、肺がんの危険は禁煙後10年で、喫煙していた場合の30〜50%に減少。心筋梗塞の超過危険は禁煙して1年で50%に減少すると報告されています。

データ等をスライドを使用し説明 |
前述のような科学的根拠に加え、禁煙サポートは少ない投資で有効な予防ができること。さらにそのノウハウは他の生活習慣改善のサポートにも十分応用できると考えられます。 これまで喫煙は単なる習慣と捉えられていましたが、その本質はニコチン依存症なのです。喫煙が常習化するとニコチンが入らないとドーパミン、セロトニンの出が悪くなるなど、本来は自己コントロールできるもの
がタバコによってコントロールするようになるのです。
心理・行動的依存とニコチン依存という2つの特徴を持つ喫煙習慣から脱却するためには、習慣化した行動の修正とニコチン依存症の治療が必要であり、これにどう働きかけるかが禁煙サポートの方法論なのです。
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●禁煙サポートの 方法論など |
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禁煙サポートを実施する際、対象となるのは「関心があり、1カ月以内に禁煙しようと考えている」準備期。「関心があるが、今後6カ月以内に禁煙しようとは考えていない」(関心期T)、「今後6カ月以内に禁煙しようと考えているが、この1カ月以内に禁煙する考えはない」(関心期U)という関心期。「関心がない」無関心期で、そのステージ分布は、アメリカの準備期20%、関心期40%、無関心期40%に対し、日本(大阪)では準備期3%、関心期7%、無関心期90%という状況であり、喫煙対策の遅れが顕著です。
禁煙サポートシステムとしては禁煙の動機付けと実行・継続のためのサポートの組み合わせが必要であり、講演会や社内報などによる啓発、医療従事者からの指導や助言、各種禁煙プログラムの提供といった教育面からのアプローチと、会社内の分煙対策の強化などの環境面からのアプローチを効果的に組み合わせることが大切です。
喫煙者によくある思い込みとして、「禁煙は自分一人でするもの」、「禁煙できるかどうかは意志の強さで決まる」、「禁煙は1回で決めなければならない」などがありますが、喫煙者が1回の禁煙の試みで成功するのはまれで、7〜10年の期間をかけて平均3〜4回の禁煙の試みを経て、生涯禁煙者になるもので、禁煙も練習なんです。
サポートの方法論として、各ステージモデルに基づいた行動、科学的アプローチとニコチンガムやニコチンパッチなどニコチン代替療法といった薬理学的アプローチがあります。実施に当たってはこれらを上手く組み合わせ、利用することが必要です。
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第2部
禁煙サポートの指導者トレーニングを体験してみましょう |
●各ステージ別のサポート内容など |
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禁煙サポートの必要性、科学的・経済的根拠等についての説明に続いて、第2部では具体的に禁煙サポートの指導者トレーニングを行いました。
まず、喫煙評価質問票などにより喫煙状況を明らかにし、喫煙者のステージを評価します。次に各ステージに合わせて禁煙サポートを行うわけですが、プログラムが成果をあげるかどうかは、この実行にかかっています。
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具体的には、無関心期の喫煙者に対しては、喫煙者の立場に立って、タバコについて話し合い、自分の喫煙習慣について考えてもらうよう働きかけ「気付きを促す」。
指導の内容として1サポート内容の説明。2タバコ検査の実施と結果説明。3タバコについての話し合い。4指導のまとめと感想の聞き出し。5今後の禁煙サポートの説明。以上5ステップを実施します。
関心期に対しては、禁煙の動機を強化したり、禁煙の負担を軽減したり、禁煙の自信を強化することにより、禁煙の意志決定ができるよう手助けするなど「意志決定を促す」。
内容としては次の6ステップです。1サポート内容の説明。2タバコ検査の実施と結果説明。3禁煙に対する動機の強化。4禁煙に対する負担の軽減。5禁煙に対する自信の強化。6身近な目標の設定。を行います。
準備期に対しては、禁煙を開始する日を設定したり、禁煙のための具体的なノウハウを提供し、禁煙に踏み出させるよう手助けし「実行を促す」。
具体的な指導としては、1サポート内容の説明。2タバコ検査の実施と結果説明。3禁煙に対する動機と自信の強化と負担の軽減。4禁煙開始日の設定。5離脱症状とその対処法の説明。6ニコチン代替療法の情報提供。7フォローアップの説明。の7ステップとなります。
ステージ別指導の実際として、ビデオによる事例を使って説明します。ケースは、準備期の喫煙者に対するものです。喫煙者のプロフィールは、25歳の女性で、喫煙本数は10本。禁煙経験なし。禁煙の自信は少しあり。 |
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増居 志津子氏 |
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結婚を控えていて、今すぐにでも禁煙したいと思っています。このケースの場合の指導目標は、禁煙に踏み出せるよう手助けすることで、@禁煙を開始する日を決定し、具体的な目標設定をする。A禁煙のための具体的なノウハウを提供する。最も重要なこととして禁煙の開始日の設定と禁煙自己宣言書の取り交わしがあります。また開始日の設定に当たっては、2週間から1カ月後頃で、あまり仕事が忙しくなく時間にゆとりがある時期を選びます。 |
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●離脱症状や吸いたい気持ちの対処法 |
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禁煙をするとさまざまな離脱症状(禁断症状)が出ます。通常は禁煙後3日以内にピークとなり、おおむね1週間、長くても2〜3週間で消失します。よくみられる離脱症状としては、タバコが吸いたい。集中できない。イライラ、落ち着かない。頭痛。その他倦怠感や眠気、逆に眠れない。そして便秘などもその症状です。対処法としては、集中できない場合、禁煙後1週間位は仕事を減らしてストレスをさける。また頭痛がする場合は深呼吸をし、足を高くし仰向けに寝るなどがあります。 |
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さらに以上のような離脱症状がおさまってからも吸いたいという欲求は続きます。そうした気持ちをコントロールする手段として、喫煙と結びついている今までの生活行動パターンを変え、吸いたい気持ちを起こりにくくする「行動パターン変更法」(・洗顔、歯磨き、朝食など朝一番の行動順序を変える。・食後早めに席を立つ。・コーヒーやアルコールを控える。・夜更かしをしないなど)。
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ロールプレイを実演する増居氏 |
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喫煙のきっかけとなる環境を改善し、吸いたい気持ちを起こりにくくする「環境改善法」(タバコやライターなどの身近な喫煙具を処分する。喫煙者の周囲に近付かないなど)。
喫煙の代わりに他の行動を実行し、吸いたい気持ちをコントロールする「代償行動法」(口寂しい時はガムを噛んだり、落ち着かない時には水やお茶を飲んだり、散歩や体操をするなど)3つの方法があります。
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