広報誌「かけはし」
2000年10月25日 No.349
  大阪大学臨床助教授夏目誠氏の「ストレスの気付きへの援助」と題した心の健康講座を9月22日、薬業年金会館で開催。自律訓練法とリラックス体操の後、具体的な事例をもとにした講演が行われた。
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ストレスの気付きへの援助
     
●気付きへの援助とは  
  ストレスの気付きへの援助とは、来談者が気付いていない、または理解していないストレスに気付くように、専門職がその知識や経験から手助けをすることです。
 具体的には転勤や昇進、離婚などのストレッサー(作用因子)やその人の性格傾向・行動パターン、さらに日常の生活習慣など修飾要因について問いかけを行って、気付きに役立たせる。また、それらの要因の絡みから、過剰ストレス状態に陥ったメカニズムを来談者自らが知識でなく気持ちや感情レベルで理解・納得できるまで、援助することを指します。
ユーモアを交えて
講演する夏目氏
   その一連の流れとして、まず来談者の感情として、最初は感情がおさまらない・ドロドロした感情の状態です。そのときのリスナー等の役割は、日常会話などで不安や緊張をほぐすことからはじめ、来談者が話してもよいという信頼関係を築いていきます。そして来談者が言葉にし話しはじめたら、とにかく聞き上手に傾聴し、受け止め共感します。と同時に来談者は話すことで自らの考えがまとまってストレスの気付きへと、つながるんです。その過程を象徴的に現すと、最初は泥水のままの状態からその泥水を汲み取る。そして粘土になり、形が少しずつ出来て粘土工芸品になるということです。
   
●事例からみた 援助の実際
   では、気付きの援助の実際を代表的な事例を使って紹介します。来談者は35歳の男性。北山次郎さん(仮名)で、高校卒業後、商事会社に勤務して17年になる係長。性格は気配り型で、勝気な妻と子供が2人いる。元来胃腸が弱く、胃炎になることが時々あった。趣味は音楽を聴くこととプロ野球観戦くらい。去年4月に本社の経理係長に昇進。本年度の決算は厳しい内容になると、予想された。多忙で超勤が70時間を超えた。「自分の責任も大きい」と考え、心労が加わる。そのうえ2年前に購入したマンションのローン返済に伴う経済的負担や長男の私立中学入試があり、ストレスは重なっていた。本年2月下旬頃より胃痛が続き空腹時に増強する。定期健康診断で潰瘍を疑われ産業医に受診。X線検査等で十二指腸潰瘍と診断された。問診でストレスがみられたので産業医はメンタルヘルスケアの必要性を、北山さんに説明。相談室を訪れ心理相談員に面談した。
 
みんなで「リラックス法」を
   この例の気付きのポイントとして、@来談者は不安・緊張が強く、自己防衛的である。多くのケースでは、メンタルヘルスケアを受けることに心理的抵抗がみられ、また面談では緊張や不安が高く自己防衛的になりがちです。ですからまず来談者の疑問点を把握し、納得のいくまで説明する。また来談者の気持ちを理解することが大切です。A来談者の緊張をほぐす・準備運動、助走の大切さ。さりげない雑談や日常会話により話しやすい雰囲気を作る。舌を滑らかにすること。Bラポールづくりを。悩みやストレスを話してもよいと信頼されること。C積極的傾聴法(聞き上手)の重要性。聞き上手、すなわち相づちを打ちながら、ひたすら来談者の言葉に耳を傾けること。Dストレスの正しい理解から始まる。ストレスを「生活上の変化や刺激、プレッシャー」と言い換え理解してもらう。E職場、家庭、個人、社会生活の変化は?。原因を細分化・具体化していく。
その他、抑圧されたストレッサーは、思い出そうとすれば心理的抵抗が強まるので、時間をかけてじっくり対応すること。またストレス反応は肩凝り・頭痛・胃痛等、体に出やすいので、そこからの問いかけや性格傾向や行動パターンなど修飾要因からの問いかけも、気付きのポイントになります。気付きへの援助に回答や助言が必要だと誤解する人が多いですが、特に答えはいりません。なぜなら気付くよう援助するのが目的だからです。ストレスの原因を明確化し、本人が理解できるようにすることが重要です。