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■2000年9月25日 No.348 |
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●第3回「まわりの迷惑を考えよう」 |
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(財)大阪がん予防検診センター
調査部長 中村 正和 |
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最近報告された調査結果(三菱電機、1997年11月)によると、日常生活の中で気になる臭いの第1位がタバコでした。2位から10位は、石油ストーブ、生ゴミ、ペット、化粧品、足・靴下、口臭、トイレ、玄関、体臭の順になっています。つまり、タバコは生ゴミや足・靴下、口臭、トイレ以上に「はた迷惑な臭い」なのです。年代別にみても、タバコはいずれの年代でも気になる臭いのワースト1で、特に10代から20代では半数近くの男女が「気になる」と答えています。タバコを吸わない人は、吸う人と違って、タバコの煙に敏感なために、少しのタバコの煙でも目やのどが痛くなったり、心理的なストレスを受けやすくなります。
しかし、日本人の国民性から吸わない人が吸っている人に面と向かって、「けむたいので吸わないでほしい」と抗議することはなかなかできません。そのため、さらにストレスがたまります。
さらに困ったことに、タバコの煙に長年、職場や家庭で受動喫煙にさらされると、呼吸機能が低下したり、肺がんや心筋梗塞などの重大な健康障害が生じる危険が高まることが明らかになっています。最近アメリカで発表された研究によると、職場で受動喫煙にさらされる期間が長いほど、肺がんのリスクが高くなることが報告されています(図1)。
また、家庭においてもタバコを吸うご主人を持つタバコを吸わない奥さんでは、肺がんで死ぬ危険が、ご主人がタバコを吸わない場合に比べて、わが国では1.4倍、アメリカでは1.2倍高くなることが疫学研究の結果から明らかになっています。 |
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アメリカ環境保健局は、世界各国の疫学研究の結果を踏まえて、1992年に環境タバコ煙をA級発がん物質(人にがんを起こすことが確証された物質)として認定しました。また、アメリカ厚生省が2000年5月に発行した「発がん物質に関する第9次報告書」においても、環境タバコ煙が新たに発がん物質として追加掲載されました。この報告書は2年毎に改定され、当局が規制措置をとる際の根拠となっています。
これまでの疫学研究の成績をもとに受動喫煙による早死と肺がんの生涯リスクを計算してみると、各々10万人対5,000人(5%)と1,000人(1%)と推定されます。これは、喫煙者本人の喫煙(能動喫煙)によるリスク(早死50%、肺がん20%)に比べて低いものの、大気汚染や食品添加物などの社会的リスクの許容基準(0.001%以下)をはるかに上回っています(図2)。
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また、わが国では受動喫煙による死亡推定者数は、年間25,000人と報告されており、これは交通事故死亡者の約2倍にあたります。
このように、受動喫煙は、決して無視することのできない社会的リスクであり、社会として緊急の対策を要する「環境汚染物質」です。受動喫煙の問題は、今や「まわりへの迷惑」という次元で議論されるべきものでなく、「有害物質の規制」という観点で検討がなされるべき問題となっています。つまり、受動喫煙の問題の解決を個人の「マナーの問題」に委ねるのではなく、非喫煙者の健康の保護を最優先した「ルールづくり」が社会として求められているのです。 |
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