広報誌「かけはし」
2000年8月25日 No.347
健康教室 ※写真をクリックしていただくと 拡大写真がご覧になれます。
乳がん診療の最前線
大阪府立成人病センター第三外科部長の稲治英生先生を講師にお迎えしての「乳がん診療の最前線」と題した健康教室が、7月26日、薬業年金会館において開催。最新情報をスライドを使って説明されました。
質問に答えられる稲治先生
 ●乳房温存療法が約3割まで増加
   乳がんは年々急速に増加し、本年には女性のがんのトップに確実に躍り出るとされています。現在日本全体で、年間3万人が乳がんに罹患、これは30人に1人が一生のうちに乳がんを経験する計算になります。また乳がんは都市部に多く、大阪府は日本全国を100とした場合、1割増し程度の頻度で発生。全国で3番目という状況です。
 乳がんにかかる年代のピークはまず50歳代、そして2番目のピークが60歳代にあります。では、どのような人が乳がんにかかりやすいかといいますと、肥満、未婚、高齢初産、専門的職業に従事している人などが高危険群であり、また家族に乳がんの人がいるとその危険度はアップします。
また肥満に関しては、特に閉経後の肥満は乳がんの発生に大きく関係しています。
さらに初潮が早い、閉経が遅いことも乳がんの発生を助長します。
 乳がんは固形腫瘍のなかでは治りやすい部類のがんで、5年生存率はがん全体の平均よりやや良く、70%位が治癒します。
 乳がんの手術が初めて行われたのは19世紀末、その頃は乳房、筋肉、脇の下のリンパ節も取るもので、その方法が100年あまりも続けられてきました。しかし、10数年前より乳房温存療法が増え、病院によって格差はありますが、全体の約3分の1にまでなってきました。乳房温存療法の普及にともない、マンモグラフィーやエコーグラフィー、MRIなど画像診断によるがんの広がり診断が重要となってきました。
 乳房温存療法とは通常、乳房温存手術と放射線療法とのセットをいい、3bまでの腫瘍がその対象になります。しかし、3b以上であっても化学療法により、3bまで小さくしてから温存療法を行う場合もあります。
 大阪府立成人病センターでは、1986年から温存療法をはじめ、その比率は約7割となっています。温存療法の手術に関してですが、円状部分切除術が一般的な手技ですが、扇状切除術が行われることもあります。治療成績に関しては、センターで行った3b以下の845例の10年生存率は放射線療法を行った群が94・1%、行わなかった群が89・7%で差はありませんでした。10年健存率では、放射線治療を行った群が84・7%、行わなかった群74・0%と、再発率に差をみとめていますが、これは局所再発率の差に起因するものです。
 乳房温存療法後の再発に関してですが、遠隔再発にはいわゆる予後因子が関与しますが、局所再発は、断端陽性であるか、そして放射線をしたかどうかが重要なリスクファクターとなってきます。また再発率は若年者の方が高いことも知られています。
 ●ホルモン療法など薬剤治療について
   再発後の乳がん治療は全身療法がその主役になります。
 生命を脅かすような病巣のない患者はすべてホルモン療法の適応であり、ホルモン療法剤には抗エストロゲン剤、LH│RHアゴニスト、アロマターゼ阻害剤などがあり、副作用は、MPA(酢酸メドロキシプロゲステロン)を除いてホットフラッシュ(ほてり)くらいで、それほどひどくありません。
 タモキシフェンは閉経前の人にも効果がありますが、閉経後の人にはより効果があります。また日本に比べ遥かに乳がんの発生率が高いアメリカなどでは乳がん予防薬としてタモキシフェンを投与されることがあります。
最新情報を映像で紹介
   アロマターゼ阻害剤は、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変えるアロマターゼをブロック、乳がんの発育を阻止します。
  一方化学療法の分野では、タキソールや、タキソテールが進歩をもたらしたといえます。