広報誌「かけはし」
2000年8月25日 No.347
   7月21日、薬業年金会館において、おなじみの夏目誠先生による「精神障害等の労災認定に関する新基準を中心に-自殺も含めて-」と題した心の健康講座を開催。まず、恒例のリラックス体操法の後、具体的な事例を元にした講演が行われました。
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精神障害等の労災認定に関する新基準を中心に
-自殺も含めて-
     
●精神障害等の労災申請が増加  
   精神障害や過労自殺という形の労災申請が現在増加しており、すでに10件が認定されています。 最近、会社を相手取った民事訴訟も増えていますが、民事訴訟と労災認定の違いは、過失の程度を争うのが民事訴訟であり、会社側が安全配慮義務をどの程度怠ったかによって判断されます。一方、労災認定は該当するかしないかの2つのみで、各県の委員会が合議制で決めます。
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夏目先生
   労災認定の新基準については、精神障害等の労災認定に係る専門検討委員会の報告書をベースに心理的負荷による精神障害等に係る業務上・外の判断指針を労働省が作成。業務上・外の判断に当たっては、(1)精神障害の発病の有無、発病時期および疾患名の確認。(2)業務による心理的負荷の強度の評価。(3)業務以外の心理的負荷の強度の評価。(4)個体側要因の評価。以上4つについて具体的に検討した上で、1判断指針で対象とされる精神障害を発病していること。2判断指針の対象とされる精神障害の発病前おおむね6カ月間、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。3業務以外の心理的負荷または個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。この1、2および3のいずれをも満たす精神障害を業務上の疾病として判断します。
   
●実例をもとに認定基準を検討
   具体的な事例として、「大卒後入社し、20年を迎える営業企画部次長。性格は真面目で融通性に乏しく、社会達成欲求の強いタイプで、家族構成は妻と2人の子供で、趣味はテニス。4月に新製品販売プロジェクトチームのサブリーダーに抜てき、過労が続く。1年間で実績を出さなければならないが思うように上がらず考え込んでしまう。この頃、単身生活の実母が脳血管障害になり、介護の問題が出てくる。7月始め頃から出勤への不安や恐怖感が出現、精神科を受診し鬱病と診断。薬物療法を受けるが症状に変化はなく、9月に会社に退職願を出した。自殺を考える」。
 この事例を前述の判断指針に当てはめ検討すると、(1)適応障害か鬱病エピソードと、国際疾病分類(ICD| 10)の精神障害に該当します。(2)超過勤務時間については実態が分かりにくいが、発病前6ヵ月間の心理的負荷(プロジェクトチームのサブリーダーに抜てき、実績が上がらない、中程度の仕事上のミス)がある。(3)実母が脳血管障害になり、介護の問題が起こった。これは、職場以外の心理的負荷評価表に当てはめると中となります。(4)個体側要因としては、既往歴がない、生活史においては適応状況はいままで普通かそれ以上であり、アルコール乱用はない。性格傾向・行動パターンは、真面目で融通性に乏しく、社会達成欲求の強いタイプである。
 この場合、議論の対象となるのは(2)を強と判断できるかどうかです。例えば超過勤務が、最近6ヵ月間に80〜100時間以上であれば強と考えられますが、20〜30時間程度であれば中程度になります。また(3)が強となれば業務との関係で合議による総合判断になります。
 今回の認定基準については、これまで適用が少なかった精神障害について明らかに考慮されていること。また国際疾病分類を採用していること。ストレスをほぼ客観的に調査していること。そしてこれまで労災認定されなかった自殺に関しても正常な認識や判断が障害されているとの解釈がされていることなどの点から評価できると考えます。
 今後企業に問われるのは、安全配慮義務。超過勤務等のほかストレスの問題に対する啓発・教育等も大切になってきます。
講座の前に肩たたきなどでリラックス