時評
「国保逃れ」医療保険制度の根幹揺るがす
いわゆる「国保逃れ」が問題となっている。国民健康保険料の負担を避けるため、社団法人の役員などの肩書きを得て、低額な報酬で社会保険に加入することで保険料負担を大幅に軽減する脱法的な手法だ。
地方議員が社団法人の理事に就任し、月4万円前後の会費を法人に支払う一方、月1万円余りの報酬を受け取っていた。この低額な報酬に基づく最低等級で厚生年金・健康保険に加入し、本来は議員報酬に応じて負担すべき国民健康保険料を回避していた。
すべての人が何らかの公的保険に加入して、保険料を公費で支え合う皆保険制度は、わが国が誇る仕組みだ。この事案は、所得に応じて保険料を負担する国民健康保険と、報酬に応じて保険料が決まる社会保険という併存する制度の間隙を突いた公平性を欠く行為である。政党は1月、兵庫県議や神戸市議ら6人を除名処分とした。
高い倫理観が求められる政治家が関与したことで注目されたが、これは氷山の一角にすぎないだろう。2008年の制度改革により、一般社団法人は公益性の有無にかかわらず設立可能となり、事業実態の把握が困難な法人が多数存在すると指摘されている。
もちろん、すべての法人が不適切な行為に関与しているわけではないが、オンラインやSNSでは「社会保険料削減サービス」として勧誘が行われており、一部の個人事業主やフリーランスの間で広がっている。
「国保逃れ」との呼称のため、国保からの離脱だけが注目されがちだが、問題はそれにとどまらない。本来の負担能力に見合わない形で社会保険に加入することになり、適切な保険料負担がなされていない。労使が保険料を出し合う社会保険で、本来は対象でない人が給付を受けることにもなる。
応能負担の原則に反するこうした行為は、医療保険制度の財政に悪影響を及ぼす。不公平を放置すれば国民の不信を招き、皆保険制度の信頼を損なうおそれがある。
厚生労働省は3月、実務を担う日本年金機構などに対し、法人理事など役員の社会保険適用要件を示す通知を出した。業務内容や、法人へ支払う会費が受け取る報酬を上回っていないかなどを確認し、適用の可否を判断するよう求めている。
一定の効果は期待されるものの、これで抜け道を完全に塞ぐのは難しい。まずは、実態の把握を進めるべきだろう。そのうえで、役員としての実態確認の厳格化や、報酬と負担の乖離が生じない仕組みの整備など、公平性を担保する対策を強化する必要がある。
正直に保険料を支払う人が損をする制度であってはならない。
(K・T)


