健康教室
健康教室についてオンデマンドにて講演動画を配信。大阪大学大学院 歯学研究科 口腔感染制御学系部門 予防歯科学講座 教授
最新の予防歯科トピックス

久保庭 雅恵 氏
今回、健康保険組合連合会大阪連合会より依頼を受け、最新の予防歯科トピックスについてお話をする機会を頂戴した。形式はオンデマンドでの視聴ということで、ビデオを作製する必要があり、少したどたどしい話し振りとなってしまったことが気になる点ではあるが、視聴者の皆様にお口の健康を守るための最新予防歯科のエッセンスをお伝えすることができたのであれば幸いである。
まず、「本当のところはどうなのか? 世界と日本のう蝕事情」については、日本は25歳以上の年齢層において永久歯う蝕の有病率が80%以上であり、世界の中でもう蝕が蔓延している国の一つであること、特に高度成長期に幼少期を過ごした45歳以上のグループでは100%に近いことを示した。現在の若年層においてはう蝕有病率は低く抑えられているため、今後その状態を維持することができれば我が国のう蝕が本当に減少したと言えるのではないか、と解説した。
続いて、「アップデート!令和のう蝕病因論」では、う蝕が多因子性疾患であることをKeyesの輪、Newbrunの輪、Fejerskovの輪で示し、特に近年社会環境要因によっても影響を受けるという考え方に移行してきた点がFejerskovの輪に反映されていることについて解説した。その後、それぞれのう蝕関連因子①細菌要因(細菌種、細菌量)、②食物要因(発酵性糖質の種類と量)、③時間要因(飲食の時間と頻度、ブラッシングのタイミング)、④唾液要因(殺菌作用、再石灰化作用、酸を中和する緩衝作用、浄化作用)、⑤清掃要因(ブラッシング技術、ブラッシング時間、清掃補助具の使用)、⑥フッ化物応用(セルフケアにおけるフッ化物含有歯磨剤や洗口剤の使用、歯科医院における定期的な高濃度フッ化物歯面塗布)、⑦社会経済的要因(社会階層、教育、収入、習慣、知識、態度、災害発生地域での居住)について詳細に解説した。
特に、歯冠部に生じるエナメル質う蝕と、歯ぐきが下がって露出した根面に生じる象牙質う蝕の発生メカニズムの違いについては、臨界pHがそれぞれpH5.5、pH6.0〜6.5(概ね6.1程度)と異なり、根面う蝕は歯垢のpHが少し酸性に傾いただけでも進行しやすいこと、また、象牙細管にう蝕原因菌が侵入、定着するとさらに根面う蝕のリスクが高まることを示した。
最後に、「セルフケア指導戦略」については、各自が家庭でできる工夫について、う蝕の病因論に対応する形で解説した。具体的には、①Keyesの輪の「食餌」「環境」要因に対応する方策として、健康的な食生活を指導すること、②Keyesの輪の「宿主」要因に対応する方策として、フッ化物含有歯磨剤や洗口剤を使用すること、③Keyesの輪の「細菌」要因に対応する方策として、頻繁なブラッシングを実施すること、④フッ化物+αとして、カルシウムイオン、リン酸イオンの補充で再石灰化をさらに促進する工夫をすること、⑤唾液分泌障害を有する方の場合、口腔内のpHを素早く中和する効果のある洗口剤を活用すること、⑥特定保健用食品に指定されている無糖ガムなどの咀嚼刺激によって唾液分泌を促進すること、⑦根面う蝕のリスクが高い方については、象牙細管を封鎖するタイプの知覚過敏用歯磨剤を活用すること、を提案した。
この講演が皆様の日々の業務のお役に立つことを願っている。