心の健康講座
11月19日、心の健康講座を開催。摂南大学 農学部 応用生物学科 動物機能科学研究室 教授 井上 亮 氏が「腸内フローラとメンタルヘルス~自分の腸内フローラを知れば改善方法がみえてくる!?~」をテーマに講演されました。
腸内フローラとメンタルヘルス
~自分の腸内フローラを知れば改善方法がみえてくる!?~

井上 亮 氏
腸内フローラとメンタルヘルスの関係が注目され始めています。
腸内フローラとは、主に大腸に存在する多様な共生細菌の集まりで、消化、免疫調節、ビタミンの合成など、私たちの身体のあらゆる機能に関与しています。特に、腸と脳は「腸脳相関」と呼ばれる強い結びつきを持ち、神経系、血液を介する代謝産物、ホルモン(HPA軸)などの経路を通じてお互いに影響を及ぼしています。このため、腸内フローラのバランスが崩れると、身体の不調だけでなく、精神面や脳機能にも悪影響が生じることがあります。
例えば、自閉症スペクトラム障害(ASD)と腸内フローラの関係は有名です。我々の研究では、水溶性食物繊維であるPHGG(グアーガム分解物)をASD児童に摂取させたところ、便秘の改善と共に精神的な不安定さ(イライラ症状)も軽減されることが明らかになっています。この結果は、腸内フローラの改善がメンタルヘルスに好影響を与える可能性を示唆しています。また、ストレスにより「緊張するとお腹が痛くなる」といった経験を持つ学生に乳酸菌を摂取させたところ、約93%が腹痛などの症状の改善を感じたというデータも報告されています。このように、予め腸内環境を整えておくことでメンタル面での抵抗力を高め、ストレスに強い体質を作ることができる可能性もあります。

腸内フローラの改善にあたっては、まず自分の腸内環境を知ることが重要です。国内でいくつか利用できる腸内フローラ検査サービスのひとつに、我々の研究成果を社会実装した「Flora Scan®」という検査サービスがあります。この検査では、腸内フローラの構成を日本人に特化して評価し、腸内フローラの型である「エンテロタイプ」を知ることができます。「エンテロタイプ」を理解することで、個々の食生活や病気との関連性が明らかになり、より効果的な腸内環境の管理が可能になります。
さらに、日々の食生活を見直すことで「エンテロタイプ」を変えることができることもわかっています。食生活では、食物繊維の摂取量を意識することも大事ですが、主食・主菜・副菜のバランスを意識することも大事です。日々の食事の質を向上させることが、腸内環境を長期的に整え、メンタルヘルスの維持や向上に繋がると考えられます。機能性食品も有効ですが、機能性食品に依存しすぎることなく、日常的な食事改善を意識することが安定的な腸内フローラの維持に効果的であると考えられます。
自分の腸内環境を知り、それに応じた適切な改善策を取り入れることが、心身の健康維持にとって重要です。