時評
データヘルスをサポートする医療・介護データの充実を
保健医療体系は2005年に予防を重視する体系へと転換が掲げられ、今日に至る。少子高齢化が進み、支え手の減少や医療費の増加などが予見されるなか、医療費を国民が負担可能な範囲に抑制するために打ち出された方針のひとつである。
データヘルス計画は2015年度から始まり、今年度に第3期を迎えた。データを活用して加入者の特性・生活習慣や職場の健康状況・働き方を把握して、予防・健康づくりを進めることがポイントの一つとなっている。保険者は、厳しい財政状況のなか、その試行錯誤を重ねてきている。
最近、医療や介護データの整備を求める、二つの文書に目が留まった。
ひとつは、4月25日付で令和国民会議が発表した「医療介護政策の基盤となる事業者データと保健医療統計の整備を」と題する提言である。このなかで、糖尿病や認知症といった国民にとって重要な疾病ですら正確な患者数や医療費が推計できていない現状に触れ、政策の基盤となる統計に偏りがあり、網羅的でないことを課題としている。また、特に取り組むべきこととして、医療介護サービスの内容を可視化する医療・介護事業者毎のデータの整備や、国際比較が可能で国民経済計算(SNA)と整合的な「保健医療支出」の統計を、正確かつ迅速に公表できる体制の整備を求めている。
もうひとつは、5月21日付で財政制度等審議会が発表した「我が国の財政運営の進むべき方向」と題する建議である。このなかで、政策効果の最大化に向けた工夫として、昨年に続き、財政支出に当たりその効果を厳しく問うEBPM(証拠に基づく政策形成)の徹底が重要と述べている。また、データに基づいた医療政策の議論を充実させていくためにも、保健医療サービスごとの支出額の多寡について、国際比較が可能となるよう医療費等のデータの整備を進めていく必要があると述べている。
保険者において、データを活用した健康状態や課題の可視化は進みつつある。しかし、施策についてはその有効性の確認は容易ではなく、まだまだ手探り状態と言えるだろう。効果的な施策を決めるには、その拠り所となるデータの充実が欠かせない。国レベルで、医療・介護データや施策効果の検証データの整備が進めば、各保険者が実施するデータヘルスの実効性や効率にも大いに寄与するであろう。
また、医療費や介護費が増大しているなか、「未病」が注目されている。未病とは健康か病気かという二分論ではなく、健康と病気とを連続的に捉える考え方である。自覚症状はないが検査では異常がある状態、あるいは自覚症状はあるが検査では異常が無い状態と定義されている。
高齢化社会を迎えた今、未病対策は健康寿命の延伸や医療費・介護費の削減といった社会課題への解の一つとして期待されている。未病対策の深化と進化にもつながるような、示唆に富む医療・介護データの充実を願う。
(D・K)