時評
今までありがとう健康保険証
―マイナ保険証への完全移行が迫る―
新たな年度を迎え、早や1カ月が過ぎた。少し前まで学生だった方は社会人としての生活に慣れるため、頑張っていることだろう。そして、自分自身の健康保険証を手にしているはずである。筆者自身、健康保険証を受け取ったときに、社会人としての自覚と独り立ちへのパスポートとしてとらえていたものだ。
しかし、健康保険証はマイナンバーカードとの一体化に伴い、今年の12月2日に廃止されることが決定した。長年慣れ親しんだ健康保険証がなくなることで、来年の新社会人がこうした感覚を得られないことは、いささか寂しい気持ちもある。
さて、現在、国が主導となり、マイナ保険証の利用促進対策として、保険者をはじめ、事業者や医療機関・薬局に次のような取り組みが進められている。
保険者には、加入者へのメリットの周知、利用率目標の設定、インセンティブ、動画による広報など。事業者には、健康経営優良法人制度における認定等の調査項目に追加することや、厚生労働省・経済産業省・経済団体等のイベント・会合で呼びかけを行うことなど。医療機関・薬局には、窓口対応の見直し、利用率目標の設定、インセンティブ、違反施設への指導、専用レーンの設置等である。
なかでも、健保組合等にはマイナ保険証利用率の目標として「5月時点で20%、8月時点で35%、11月時点で50%」と示された。
そのためには、加入者に対して、厚労省や健保連が作成したチラシを配布したり、WEBサイトに掲載したりするなど、マイナ保険証を利用した際のメリットを周知することが必要となる。また、マイナンバーの事前収集としては、新入社員への働きかけを行うことも効果的と考えられている。
健保組合は保険者としてできる限りの取り組みを行うことは当然であるが、このマイナ保険証の利用促進は、すべての関係者が努力しないと進まない。
2月の社会保障審議会・医療保険部会で示された資料には、約2割の医療機関等において利用促進に関する取り組みが行われていないとあった。昨今の働き方改革や診療報酬改定など、医療DXの推進に直結するマイナ保険証の利用促進は、医療機関等にとってもメリットが非常に大きいに違いない。ぜひ、すべての医療機関等は積極的に取り組んでほしい。
今こそ、安心・安全で質の高い医療を効率的・効果的に提供することや、急速に進む少子高齢化で膨らむ医療費の適正化などを目指し、保険者と医療機関・薬局、事業者、そして患者が一致団結するときである。
(M・S)