健康セミナー
11月21日、健康セミナーを開催。京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野 准教授 高橋 由光氏が「生活習慣病とヘルスリテラシー~「正しい」医療・健康情報の見極めと活用~」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
※本講演の動画は12月1日~1月6日までオンデマンドにて配信
生活習慣病とヘルスリテラシー
~「正しい」医療・健康情報の見極めと活用~

高橋 由光 氏
生活習慣病改善のために「体重を減らそう」と考えたとき、「飲むだけでやせる薬」の情報を見つけたとします。これは、正しくて信頼できる情報でしょうか? 「情報を見極めるポイント」として、「根拠はあるか」「対象は何か」「分母は何か」「比較されているか」「情報源は何か」に着目するとよいでしょう。「どのような人に対して(P)、どのような治療が(I)、どのような治療と比べて(C)、どのようによくなったか(O)」という、根拠を問い直す形を覚えておくと、頭の中を整理できます。
「根拠に基づいて判断する」という考え方は、1990年代前半に医療の領域で提唱された「根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine、以下EBM)」からきています。エビデンスとは、薬や治療法、検査方法など、医療の内容全般について、有効で安全であると判断できる科学的根拠のことです。EBMでは、エビデンスに、臨床家の専門性と、患者さんの価値観と、様々な状況や環境を統合させ、よりよい医療を目指しています。EBMには実践のステップがありますが、自分自身や身近な人の健康上の課題をはっきりさせる、情報を収集する、情報を見極める、そして自分自身や身近な人に活用し、評価する、という「正しい情報」を見極め活用するステップとして利用することもできます。

EBMの考え方を理解することは、ヘルスリテラシー向上の大きな助けになります。ヘルスリテラシーは、「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり、意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの」と言われています。健康リスクや保健医療の利用の情報を理解する「機能的」基本能力、健康情報を入手・伝達・適用する「相互作用的」能力、健康情報を批判的に吟味する「批判的」能力があります。ヘルスリテラシーが低いと、生活習慣病に関連する好ましくない生活(運動不足、偏った食習慣、喫煙、飲酒)をしやすくなります。病気や薬などのことを理解しにくい、病院で自分の心配を伝えにくい、慢性の病気のために入院しやすい、さらには、死亡率まで高くなることも知られています。
ヘルスリテラシーには、様々な捉え方があり、健康に関連するリスク要因としての側面や、健康の社会的決定要因としての側面があります。個人が健康になり、その情報や習慣が個人・地域・社会と広まり、人々が健康になる、このこと自体が社会の資産であるという考え方です。コロナ禍では、実社会やインターネットで、正しい情報とともに誤情報や偽情報が溢れかえってしまいました。それらはインフォデミック(インフォメーションとパンデミック[世界的流行]の造語)と呼ばれ、人々の健康が脅かされる状況が生まれてしまいました。「正しい」医療・健康情報の見極めと活用を考えること、ヘルスリテラシーを向上させることは、自分のみならず、みんなの健康維持・向上にもつながります。