心の健康講座(オンデマンド配信)
8月30日~9月13日、心の健康講座についてオンデマンドにて講演動画を配信。関西大学大学院 心理学研究科 心理臨床学専攻 教授 串崎真志氏が「繊細な性格の心理学」をテーマに講演されました。
(以下に講演要旨)
繊細な性格の心理学

串崎 真志 氏
最近、HSP(highly sensitive person)という言葉を耳にします。新しい病気か何かでしょうか? いいえ。昔からある性格の一つで、少数派ですが、特殊なものではありません。皆さんにも馴染みのある性格です。
そもそも性格とは何でしょう? 世の中にはさまざまな人がいます。ものの考え方や捉え方、行動の仕方が、人によって異なることを、十人十色といいますね。心理学では、このような個人差を性格と呼びます。パレットに置いた絵具のように、さまざまな性格の人がいると想像してください。
HSPは繊細な性格のことです。その特徴の一つが、感覚の個人差(多様性)です。私たちの感覚は人それぞれ異なります。例えば、数年前に話題になった、The Dressという錯覚をご存知でしょうか。同じものでも、人によって見え方が違うという一例です。HSPの人は感覚が鋭いので、多くの人が平気な環境で、大きく反応してしまいます。ここで、間違えないでほしいのは、HSPは病気や障害ではないということ。あえて言うなら、ラーメンが好き、カレーライスが好きといった嗜好の違いに近いです。
HSPがいま関心をもたれているのは、現代の日本人の悩み方をよく表す言葉だからだと思います。つまり、人の顔色を伺いすぎて、疲れてしまう人が多いということ。これもHSPの特徴の一つです。会話のなかで「〜さんは繊細だ」と言うとき、褒め言葉というより、「気にしなくてもよいことを、気にしすぎる人」といった、マイナスなニュアンスかもしれません。HSPが日本で注目される理由には、集団主義的な文化の中で、空気を読みすぎて、窮屈に感じる人が多いという、社会背景があると思います。
もう一つ、HSPの典型として、引っ込み思案な性格があります。ここで、2歳すぎの男児の様子を見てみましょう。知らない女性が来ると、母親の後ろに隠れてしまいます。しかし、彼は単なる怖がりではありません。慣れると、きちんと遊ぶことができる慎重なタイプです。このような内気な性格(よく泣く、寝つきが悪い、感情の起伏が大きい、新しい場面に慣れにくい、人見知りするなど)も、HSPの特徴の一つです。実は、HSP研究の源流は、赤ちゃんの気質研究です。この他の特徴として、人と気持ちが共鳴しやすい、環境によって振れ幅が大きい、などがあります。
HSPの人にたくさん出会うと、人物像をうまくイメージできるのですが、慣れるまではピンとこないかもしれません。HSPの理解が難しいのは、いくつかの特徴の複合体だからです。例えるなら、関西人のような概念と似ています。一括りに関西人といっても、「大阪の人は・・神戸の人は・・京都の人は・・」というように、いろんな人がいます。HSPのなかにも多様性があるのです。
HSPの人に多い悩みは、前述のように、人の顔色を伺い、気疲れしやすいことです。HSPは、特に気持ちの切り替えが苦手なので、リラクセーション(息をゆっくり吐く)、イメージトレーニング、自分に対する言葉かけ(「人は人、我は我」など)を練習するとよいでしょう。また、ストレス解消法として、お風呂に浸かる、趣味に没頭する、自然から元気をもらう、気の合う人から元気をもらうなどを、お薦めします。