時評
“超”危機的な状況
― 2021年度予算早期集計から ―
新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言の発令や、その期間の延長。国や地方自治体からはその都度、自粛要請が出されている。しかし、新規感染者数の大幅な減少が見られないことや、人の動きの流れから、国民には度重なる自粛要請に協力するほどの余裕がないことがうかがえる。
さて、余裕がないというよりも、「危機的」を通り過ぎて、すでに「“超”危機的」な状況にあるのが健保組合である。
健保連は、2021年度の健保組合予算早期集計を発表した。
経常収支差引額は、5098億円の大幅な赤字。昨年度も赤字予算だったが、それと比較しても2倍以上に赤字額が膨らんだ。赤字組合数は1080組合で、全組合の8割に迫る。報酬低下による保険料収入の減少と、高齢者医療への拠出金の増加が要因とみられる。義務的経費に占める拠出金の割合が50%以上の組合は、全体の約3割にもなる。加えて、収支均衡に必要な財源を賄うための実質保険料率が、過去最高の10.06%となり、協会けんぽの平均保険料率である10%を初めて超えた。
これだけでも健保組合の現在の窮状を推し量るには十分だが、新型コロナの終息までは、まだ保険料収入の増加はあまり期待できない。それにも関わらず、医療費や拠出金による支出は増加の一途をたどる。まさに八方塞がりの状況だ。
収入の増加に期待できないとなると、健保組合がこれから生き抜いていくためには支出を抑えるしかない。しかし、加入者の健康を守る健保組合にとって、保健事業費を大きく削ることはできない。また、医療費については、高齢化や医療の高度化によって増加傾向だが、健保組合は保険者としてできる限りの適正化に取り組んでいる。残るは、健保組合自身ではどうすることもできない拠出金である。
予算早期集計の結果、前期高齢者納付金は対前年度1007億円増の1兆6467億円、後期高齢者支援金は同287億円増の2兆158億円となった。
昨年から、厳しい負担にあえぐ現役世代の負担軽減を目的に、後期高齢者の窓口負担割合を負担能力に応じて2割に見直す議論がなされた。この2割負担導入の決定については一定の評価ができるものの、やはり我々としては十分な見直しとは言い難い。しかし、とりあえず現状ではこの決定内容をできるだけ早く、着実に実施してほしい(6月4日法案成立)。健保連の佐野副会長は衆参両院の厚生労働委員会参考人として「現役世代の負担増は危機的で、時間との闘いである」と述べている。
新型コロナの影響で、団塊の世代が後期高齢者になり始める2022年以降、拠出金負担が急増すると見込まれる、いわゆる「2022年危機」よりも早く健保組合の財政は深刻な状況に陥った。すでに解散を余儀なくされた健保組合もある。健保組合の減少は、国民皆保険制度そのものが揺らぐといっても過言ではない。
後期高齢者の負担割合については、今回の改正にとどまることなく、さらなる対象範囲の拡大に向けて、できるだけ早い段階での検討を願う。
り返すが、これは時間との闘いであり、健保組合はすでに“超”危機的な状況である。
(M・S)