広報誌「かけはし」

■2021年3月 No.594
時評

介護保険への関わり方

 来年度予算編成も終わり、3月は大半の健康保険組合が一息ついている時期だ。今年は予算編成にあたって、多くの組合が新型コロナウイルス感染拡大の影響を読み切れず、頭を悩ませたことであろう。何より一番気になったのが、どこまで納付金額に影響を与えるかである。
 特に介護納付金については、今回から予算編成に向けての参考係数の公表が廃止され、1月中旬の事務連絡による確定係数の公表を待つこととなった。結果は、令和3年度の総報酬割負担率は1.893368%と、前年のそれを0.1137ポイント上回ることとなり、多くの健保組合が介護保険料率の引き上げを余儀なくされたことと思う。
 高齢化に伴う介護費用の増加は避けられず、4月からの介護保険サービスの料金体系引き上げも決まった。新型コロナ禍では介護事業従事者の負担も増しており、こうした背景からやむを得ないものの、健保組合にとっても辛い負担増加である。
 なお、1月中旬の事務連絡発出は、組合会付議への準備期間を踏まえるとギリギリのタイミングである。参考係数の公表廃止により、予算編成時の金額と実際の賦課額との間にズレが生じるという問題は解消されたが、逆に事実上介護勘定の支出のほぼすべてを占める納付金の数字がなかなか固められずに困ってしまった。特に料率引き上げ必至の場合、組合会へ向けた十分な準備期間・説明時間を維持するため、確定係数の公表時期をもう少し早められないものかと思う。
 ただ、介護保険料率引き上げに関する被保険者への説明責任を健保組合が負う現状にも違和感がある。
 そもそも介護保険においては、健保組合は保険者ではない。全国的な介護保険費用の使い方に健保組合が直接関わることはない。また、介護納付金が全面総報酬割となった以上、個々の健保組合が個別に料率を定める意味も薄まっているのではないか。単年度収支を維持するためには、介護保険料率を最低限、総報酬割負担率と同じにしなければならない。現実的には、組合ごとにこれまで蓄積した準備金額や、標準報酬総額見込み額の精度による精算の金額などで料率が変わってくるであろう。ただ、総報酬割負担率の軽減に向けては健保組合の自助努力が入る余地はない。自助努力とは関係なく、全国で必要な費用の一部を一定の割合で徴収する制度である以上、徴収される者への説明責任は健保組合ではなく、全面的に国が負うべきである。
 思い返せば、もとは加入者割であった介護納付金は、平成29年度から段階的に総報酬割を導入した。総報酬割の導入に対しては、介護保険制度創設時の理念を逸脱し、国庫補助削減の肩代わりを健保組合に強いるものだとして、当時健保連を中心に健保組合は断固反対を叫んだ。この平成29年は、後期高齢者支援金が全面総報酬割に移行した年でもある。健保組合にとっては、立て続けの負担増加措置であり、決して容認できるものではなかった。そうした健保組合の切実な訴えを無視しての強行導入は、いまだに納得できるものではない。
 導入にあたり激変緩和措置として実施された助成事業も今年度で終了した。来年度からは助成も得られず、一部の健保組合は本格的に総報酬割に苦しめられることになろう。
 2022年危機、その後に続く2025年問題を控え、我々健保組合は限りある財源と時間のなかで、加入者の安定した生活と健康の保持・増進に集中的に取り組んでいかなければならない。一方、全国的に介護費用はますます増加し、健保組合は毎年介護勘定予算に悩むことになる。介護保険制度の意義・重要性は何ら否定しないが、健保組合の実務上の関わり方を議論し直す余地はないものだろうか。
  (K・F)