広報誌「かけはし」

■2020年10月 No.589
時評

「健康保険組合全国大会」中止に思う

 10月19日に東京国際フォーラムで開催を予定していた令和2年度健康保険組合全国大会が、中止となった。この全国大会は、昭和22年5月に第1回大会を開催し、昭和24年から昨年まで毎年開催してきたが、初めての中止となる。
 中止の理由は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によるもので、来場者、関係者等も含め4000人に達することや、健保組合・健保連が担う健康を守るという社会的責任なども考慮した結果、やむなく、中止の結論に至った。本来であれば、2年後に差し迫った「2022年危機」に向け、健保組合の主張を強力にアピールする絶好の機会であったはずなのに、たいへん残念である。
 新型コロナウイルス感染拡大は、健保財政にも大きく影響する。健保連は、感染拡大による健保組合の財政影響の試算結果をまとめ公表した。それによると、賃金が低下し、急激な財政悪化が見込まれるとしている。令和2年度当初予算時に比べ、平均標準報酬月額で4.0%減、平均標準賞与額で12.9%減となり、保険料収入は4.8%減少する。金額にして約4000億円の減少となり、単年度収支を均衡させるための実質保険料率は、当初予算時の9.58%から10.08%と協会けんぽの平均保険料率を上回る。
 その影響は、リーマンショックに匹敵するものといえる。さらに今後の感染状況により経済が低迷することになると、健保財政は、当初想定した2022年度よりも1年早く危機に陥る可能性が高くなり、解散組合の増加が懸念される。
 感染拡大は、医療保険制度改革等の社会保障政策の進捗にも影響する。政府は7月に、経済財政運営と改革の基本方針「骨太方針2020」を閣議決定した。昨年、「骨太方針2019」のなかで、医療における現役並み所得の判定基準の見直しや薬剤自己負担の引き上げなどの医療保険制度の給付と負担のあり方については、「骨太方針2020」で取りまとめるとされていた。
 しかし、今般の新型コロナウイルスの影響により、関係審議会等での検討が進まなかったため、残念ながら、具体的な内容は盛り込まれず、検討が先延ばしされる格好となった。また、6月に第2次中間報告をまとめた「全世代型社会保障検討会議」でも、焦点であった後期高齢者2割負担導入などの医療保険制度改革案の結論を、当初予定の夏から年末に延期した。
 コロナ禍のなかでも、「2022年危機」は確実に迫りくる。団塊世代が後期高齢者に移行することによる高齢者医療費の急増、それに伴う医療保険財政の悪化が加速する「2022年危機」が、新型コロナウイルスの影響により、その時期が早まるのではないかと危機感を強く抱く。国民皆保険制度の持続性確保のため、後期高齢者2割負担導入など給付と負担の見直しを、これ以上先送りすることのないようしっかり議論すべきだと考える。
 令和2年度健康保険組合全国大会は中止となったが、新たな広報手法も検討しながら、健保組合の窮状と医療保険制度改革に対する我々の主張を、関係各所にしっかり訴え続ける必要がある。
  (M・M)