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8月29日、大阪商工会議所で健康教室を開催。大阪健康安全基盤研究所 公衆衛生部長 小林 和夫氏が「現代社会における感染症の脅威と予防接種戦略」をテーマに講演されました。参加数は、46組合・53人。(以下に講演要旨) |
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小林 和夫 氏 |
感染症は現在でも全世界の総死亡の約4分の1を占め、人類に大きな健康被害を招来している。さらに、従来、非感染症疾患として認識されていた悪性新生物(胃がん:Helicobacter pylori、肝細胞がん:BおよびC型肝炎ウイルス、子宮頚がんや咽頭がん:ヒトパピローマウイルスや成人T細胞白血病:human T lymphotropic virus-lなど)に病原体感染が関与している。すなわち、感染症は広範で甚大な健康被害を惹起している。
感染症の増加には、都市化による過密、人口の集中、貧困、交通機関の発達による人民の高速移動、国際化、温暖化などが関与している。感染症は、病原体と宿主の生存戦争である。再興病原体は、抗微生物薬に耐性を獲得し、また、新興病原体は、人類に新たな脅威を提供している。また、宿主側の要因として、感染抵抗力の減弱(人口の高齢化、免疫抑制薬/臓器移植や免疫疾患)が易感染症を惹起している。
感染症対策の基本は、1)感染源、2)感染経路、3)感受性宿主対策から構成される。その具体として、教育・環境・行政など社会基盤整備、抗微生物化学療法、ワクチンなど免疫介入療法が推進されている。しかし、感染症対策の基本は予防であり、予防における最も効果的、かつ、科学的戦略は、宿主を治療標的、かつ、有効活用した免疫介入療法:予防接種/ワクチンであることは、過去、現在、将来ともに不変である。事実、人類が根絶した唯一の疾患は痘瘡/天然痘であり、その勝利・原動力はワクチンであった。
ワクチン接種は個人防衛のみならず、集団・社会防衛にも貢献する安全保障である。風しん、麻しんや百日咳などの多くのワクチン予防可能な疾患(Vaccine-preventable diseases:VPDs)は、ワクチン接種により発病や重症化を防止することが可能である。世界保健機関(WHO)は、ワクチン接種により、毎年200―300万人の命が救われていると推定している。
「感染症を正しく理解し、正しく恐れること」は、対策に重要である。教育・環境・行政・社会基盤整備に加えて、ワクチンなど人類の叡智が感染症を克服することを、そして、感染症の健康被害を減少させることを期待している。 |
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