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医療・介護保険制度を取り巻く諸情勢と健保連の対応 |
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平成30年度は、高齢者医療制度が平成20年度に施行されて10年が経過した。平成22年度には後期高齢者支援金の拠出方法が加入者割から一部総報酬割へと変更され、平成29年度からは全面総報酬割が導入された。その間、急速に進む少子高齢化、人口構造、疾病構造の変化、医療技術の進歩等により、特に高齢者の医療費が増加した。そのため、高齢者の医療費への拠出金増加が健保組合の財政危機を招き、各健保組合では、別途積立金繰入、保険料率引き上げで対応してきたが、すでに財政的に限界にきているのが現状である。
5月21日の経済財政諮問会議に政府から提示された「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」によれば、医療給付費については、平成30年度予算ベースでの39.2兆円から、2040年度には1.7〜1.9倍程度の66.7〜75.4兆円まで膨らむ。健保組合の平均保険料率は、健保連の早期集計で9.2%なのが、最高で11.2%になると見込んでいる。このような厳しい状況を改革するため、健保組合・健保連では、過重な高齢者医療拠出金によって厳しさを増す健康保険財政を立て直すため、「現役世代に偏った負担の不均衡を是正する高齢者医療費の負担構造改革」を強く国に訴えているが、健保組合によっては今後も厳しい状況にある。
5月25日には、健保連など被用者保険関係5団体から「骨太方針2018」の策定に向けた意見書を厚生労働大臣あてに提出した。今後、団塊の世代が後期高齢者になるなど高齢化問題が深刻化するなか、現役世代の人口が急減するとして、持続可能な医療保険制度を構築するために踏み込んだ改革が急務と指摘した。そして、後期高齢者の窓口負担・拠出金負担の軽減・社会保障の持続可能性確保・医療費の適正化・保険者機能の強化―の5項目の問題意識を掲げて適切な方向性を示すよう要望した。6月15日に「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太の方針)」が閣議決定された。骨太の方針では、令和元年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを実施する方針を明記し、団塊の世代に対応して2019年度から2021年度を社会保障改革の軸とする「基盤強化期間」と位置づけ、年末に新たな改革工程表を策定するとした。12月20日の諮問会議で決定された新工程表では、企業と健保組合等保険者との連携による健康経営の促進や、データヘルスの推進などの健康づくりに関する事項や医療費の適正化など、着実に取り組みを進めるべき事項が示されている。しかしながら、給付と負担の見直しについては、早期に改革が具体化されるよう検討するとし、2020年度の検証後にとりまとめる骨太方針で明らかにするとされた。健保連の懸念どおり、後期高齢者窓口負担の見直しが先送りされ、極めて遺憾であると言わざるを得ない。
健保連では、平成31年2月に高齢者医療費の負担構造改革などの主張を実現させるための活動方針を常任理事会で承認した。団塊の世代が後期高齢者になり始めて、拠出金が急増する「2022年危機」に焦点を当て、組織を挙げて活動を展開するとともに、関係団体との連携を深め、政府や国会への働きかけを強化するため、健保連本部に課題別のチームを設置し、要求実現対策本部で具体案を審議することとした。
一方、介護保険については、令和2年度には全面総報酬割になる予定であり、政府の財政抑制政策は、結果的に健保組合の負担が増え、財政に大きな影響を与えることになる。
これらのことから、抜本的な負担構造改革等を実現すべく、政府、および国会議員への要請活動を積極的に展開するとともに、全国各地では、広く国民に訴えるイベントを開催し、今後も令和元年10月の消費税率10%への引き上げに照準を合わせ、政府の令和2年度予算編成に向けて、健保連本部と各健保組合は各関係団体とも連携しつつ、高齢者医療制度はじめ医療保険制度の抜本改革を粘り強く訴えていくこととしている。 |
A |
骨太方針2018 |
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政府は6月、「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太方針2018)」を決定した。骨太方針では、少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現を副題に沿え、財政健全化の目標については、基礎的財政収支黒字化の時期が5年先送りされ、2025年度に変更された。社会保障制度改革の基本に、社会保障費の伸びと国民負担の増加の抑制を据えたが、高齢者医療への拠出金負担に上限を設けるなど具体的な負担軽減策は示されなかった。 |
B |
未来投資戦略2018 |
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政府が6月に決定した未来投資戦略2018では、健康・医療・介護を有機的に連結したICTインフラを2020年度から本格稼動すべく、「データヘルス改革」の推進が盛り込まれ、7月30日には厚生労働省において、「データヘルス改革で実現するサービス工程表」が取りまとめられた。データヘルス改革が掲げる8項目のサービスの1つとして、8月31日には厚生労働省、経済産業省、日本健康会議が連名で、全健保組合に「健康スコアリングレポート」を発送し、事業主と保険者のコラボヘルスの促進が図られた。データヘルス改革の基盤構築として、被保険者番号の個人単位化、オンライン資格確認システムの導入を掲げ、2020年度からの運用開始を目指すとされた。
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C |
健康経営優良法人認定 |
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31年2月、日本健康会議が企業・団体を認定する健康経営優良法人に、「大規模法人部門(ホワイト500)」で820法人、「中小規模法人部門」で2502法人が認定された。認定にあたっては、保険者と連携した健康経営の実践が重視されており、今回は、健康保険組合も40組合が認定された。企業における健康づくりへの重要性が高まり、医療保険者と企業の健康づくりへのコラボが推進され、健康に対する意識の向上が期待される。 |
D |
平成30年度診療報酬改定 |
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政府は30年度診療報酬改定における改定率を、診療報酬全体で1.19%引き下げることとした。内訳では、診療報酬本体の引き上げ分は0.55%、薬価等の引き下げ分が1.74%で、差引全体の改定率は1.19%の引き下げとなった。今回の改定は、介護報酬と改定の時期が重なる6年に1度の同時改定となったことから、医療と介護の連携、効率化にも重点が置かれた改定となった。改定の基本方針は、地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進、新しいニーズにも対応でき、安心、安全で納得のできる質の高い医療の実現・充実等が重点課題に位置づけられている。また、介護報酬については0.54%の引き上げ改定となった |