広報誌「かけはし」

■2019年8月 No.575
高齢者の中に広がる慢性腎臓病
〜生活習慣病対策による予防〜

 7月18日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。神戸大学大学院医学研究科 腎臓・免疫内科学分野 教授 西 愼一氏が「高齢者の中に広がる慢性腎臓病〜生活習慣病対策による予防〜」をテーマに講演されました。参加数は、46組合・53人。(以下に講演要旨)

 
 
西 愼一 氏
 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は、一般に自覚症状もなくゆっくりと腎機能低下が進行します。浮腫などの自覚症状が出現したときには、すでに末期腎不全に近く、透析あるいは腎移植が必要となってしまうこともあります。検診で早期に慢性腎臓病であることを発見し、腎機能低下を予防することが必要です。
 検診や日常診療では、尿蛋白の程度と腎機能(糸球体濾過量eGFR)の程度で、CKDの診断と重症度を判定しています。eGFRは血液検査の血清クレアチニンから計算して求めます。ですから、尿検査と血液検査がCKDの診断には必要となります。ただ、腎機能・eGFRの低下は、加齢とともに進行します。したがって、高齢者にはCKDは必然的に増加します。
 CKDの進行とともに危惧されることは、将来腎機能が低下し末期腎不全に至るリスクと心血管系疾患が悪化し死亡するリスクです。少しでもCKDの進行を抑えることは、CKDの早期段階から取り組む必要があります。日常診療あるいは自己管理のなかでは、eGFR45ml/min/1.73までに取り組みを始め、これ以下になった場合は、腎臓専門医あるいはCKDに詳しい内科医に管理してもらう必要があります。
 では、eGFRがeGFR45ml/min/1.73までに取り組むべき対策は何でしょうか。まず、CKDの原因となる疾患を患者さんが自覚することです。CKDの原因疾患は多数ありますが、頻度として多くみられるのは、糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎、遺伝性多発性嚢胞腎です。そのほかに、肥満、手術、腎盂腎炎、妊娠高血圧腎症、尿路結石、尿路悪性腫瘍、膠原病、造影剤、痛み止めなどが原因として挙げられます。実は、糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病からCKDが悪化する人が、半数近くいると言っても過言ではありません。
 それでは、CKDの進行予防と対策はどのようなものでしょうか。簡潔に言えば、まず、糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病の管理を食事療法と治療薬剤でしっかり行うことです。さらに、腎機能が低下しeGFR45ml/min/1.73未満となった場合、より厳格な、血圧管理、血糖管理、体重管理が必要となります。また、適切な薬剤の使用方法で、これらの生活習慣病を管理する必要があります。近年、新規の糖尿病治療薬が登場し、血糖管理のみならず、体重減少、浮腫軽減、腎機能保護、心血管系疾患保護にも有用であることが証明されています。このように薬剤も日進月歩で進化していますので、専門的知識のある腎臓内科医あるいはCKDに詳しい内科医の元での管理が望ましいと考えられます。
 ただし、CKDの予防という観点からは、患者数があまりにも多いため、まずは、日常生活における個々の患者自身の注意が必要です。そのポイントは、適切な飲水、体重管理、運動、禁煙、健康的なバランスの取れた食事などになります。

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