■2019年2月 No.569
生活習慣病予防と医療費に関する私見
12月6日、大阪商工会議所で健康セミナーを開催。滋賀医科大学 社会医学講座 公衆衛生部門 准教授 藤吉 朗氏が「生活習慣病予防と医療費に関する私見」をテーマに講演されました。参加数は、45組合・50人。(以下に講演要旨)
藤吉 朗 氏
超高齢社会を迎えた現在の日本は、国民のおよそ30%が悪性腫瘍(がん)で、25%が循環器疾患(脳卒中、心筋梗塞など)で亡くなっています。医療費削減の観点からも、これらの疾病の予防が肝要です。日本人の死因の原因としては、喫煙、血圧、糖尿病の重要度が高いと思われます。
喫煙は種々のがん、循環器疾患、肺疾患、糖尿病などさまざまな健康障害の原因であり、受動喫煙の害もすでによく知られています。最近はいわゆる“新型タバコ”(非燃焼加熱式タバコ:商品名:“アイコス”、“プルームテック”など)が増えています。これらはタバコ葉の加熱により発生するエアロゾルを吸引する製品であり、主流煙には通常のタバコと同レベルのニコチン(依存形成物質)やホルムアルデヒド(発がん性物質)が含まれており、受動喫煙の可能性も十分に考えられることが日本呼吸器学会や世界保健機関(WHO)から指摘されています。
日本では、20世紀半ばをピークに脳卒中が激減しました。その理由は、国民皆保険制度の導入や、急性期治療の進歩もありますが、塩分摂取量減少と降圧薬治療の普及による国民レベルでの血圧の低下が関与しているといわれています。国民の1日平均食塩摂取量は20世紀半ばから漸減し、2011年には10.4gとなっていますが、健康日本21(第2次)で示された目標値(8g/日)にはいまだ及ばず、さらなる減塩が必要です。
高血圧予防には、減塩、野菜・果物の充分な摂取、肥満予防・体を動かす、節酒、などが大事です。一方、高血圧でも降圧治療をきちんと行うと、罹患リスクが減少することが分かっているにもかかわらず、日本人高血圧者の30〜50%以上が未治療、降圧剤服用者のうち50〜70%が降圧不十分と報告されています。高血圧者は降圧治療をきちんと行うことが重要です。
糖尿病については、循環器疾患のみならず、さまざまながん、そして認知症のリスクを高めることが分かってきました。
認知症の予防
高血圧、糖尿病、喫煙、アルコール多飲などの循環器疾患危険因子を持つ人ほど認知症になりやすいことが、近年分かってきました。動脈硬化が進展している人ほど、将来の認知症になりやすいとする報告もあり、若い頃から動脈硬化を起こしにくい生活をすることで認知症を予防できる可能性があります。
睡眠と健康
睡眠不足を引き起こすような長時間労働・交代勤務は、高血圧、肥満・糖尿病を引き起こしやすく、ひいては循環器疾患やがんのリスクを高めることが分かってきました。これからは労働者が十分な良質の睡眠を確保できるように労働環境を整備することが、一層求められるでしょう。
個人の努力のみで生活習慣を変えることが困難な場合もあり、各個人のおかれた社会経済的環境や心のあり方など、疾病の“上流”にある因子にも目を向ける必要があるでしょう。睡眠は、そのような上流因子と密接に関連しており、これから注目していく必要があります。
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